弁護士コラム
Column
- HOME >
- 弁護士コラム |
セクハラ問題と企業の責任
- 投稿日 :
- 2023-07-01 00:00:00
- カテゴリ :
- 企業法務
- WRITER :
- 桜花法律事務所 中島俊明
目次
1.セクハラとは何か
2.セクハラによって生じる企業の責任
3.セクハラを防ぐ体制
4.セクハラを行った社員への対応方法
5.セクハラに対する最高裁判所平成27年2月26日判決
6.まとめ
1.セクハラとは何か
セクハラは様々な面から根拠付けや定義づけができるのですが、広く「職場に関係する性的な嫌がらせ」と理解しておくのが正解だと思います。厳密に定義づけして狭くとらえてしまうことは危険です。
法律も社会常識も常に移りかわっていくものです。ある時点においてセクハラとされていなかった行為でも1年後にはセクハラとなることも十分に考えられます。
また、不法行為に基づく損害賠償請求を定める民法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」として「加害行為」という一義的に定まらない要件を用いているように、損害賠償責任は個別具体的に判断されます。
このように、セクハラを防止するという観点からは、セクハラを意味を狭くとらえるということは危険であると思います。
2.セクハラが企業に及ぼす責任や危険性
(1)行政法上の責任
男女雇用機会均等法11条では「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定められているなど、同法ではセクハラを防止するための企業の義務が定められています。違反が認められて厚生労働大臣から勧告を受けて、これに従わなかった場合には、公表されることになります(同法29条1項)。
【参考】
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
(2)損害賠償責任などの民事上の責任
セクハラによって精神的苦痛を被ったなどとして損害賠償請求をされたり(民法709条、民法715条)、人格権に基づくセクハラの差止請求が行われます。損害賠償責任は認められることはもちろん企業にとっての大きな損害になりますが、裁判に対応するための弁護士費用やそれに対応するための時間的損失など大きな
(3)刑事手続による信用失墜
暴行又は脅迫により被害者の方の体に触れるなどのわいせつ行為をすれば、加害者は、強制わいせつ罪に該当します(刑法176条)。また、それを超えて性交に及べば強制性交罪に該当します(刑法177条)。
刑事責任は加害行為をした本人を課せられる責任です。刑事手続は最終的には公開の裁判で判断されます。この場合には、報道やSNSなどで晒されることになり、企業内外の信用の失墜等悪影響があることは明白です。特に、経営陣がこのような犯罪で刑事責任を追及される場合の影響は計り知れないものがあります。
当事務所でも労働者側の立場で刑事告訴までしませんでしたが、十分に可能であった事例があります。
(4)従業員の失望と人材の流出
セクハラが行われれば、セクハラの被害者が精神を傷つけられて休職したり、退職を考えることは当然のことです。
また、セクハラ行為は、被害者だけでなくその状況を見ている周りの労働者にも精神的な苦痛を与え、仕事に対する意欲を削いでいったり、セクハラを放置した会社に失望して退職することも考えられます。このようにセクハラは企業支える「人」を傷つけるものです。
3.セクハラを防ぐ体制
セクハラを防ぐ体制については厚生労働大臣による指針で定められており、概ね以下の内容になります。
(1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発すること。
〇職場におけるセクシュアルハラスメントの内容及び職場におけるセクシュアルハラスメントを行ってはならない旨の方針 を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
〇職場におけるセクシュアルハラスメントに係る性的な言動を行った者につ いては、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・ 啓発すること。
②相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
〇 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
〇相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応で きるようにすること。被害者が萎縮するなどして相談を躊躇する例もあること等も踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、職場におけるセクシュアルハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生の おそれがある場合や、職場におけるセクシュアルハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うこと。
③職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
〇事実関係を迅速かつ正確に確認すること
〇事実確認によってセクハラがわかった場合には、被害者のために配慮のための措置を行う
〇セクハラが判明した場合には、加害者に対する措置を適正に行うこと
〇改めて職場において周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を行うこと
④申告者・調査協力者等のプライバシー保護と不利益取扱禁止
〇プライバシー守るための措置をとること。
〇セクハラを相談したことや事実関係の調査に協力したことをもって不利益に扱われないこと
4.セクハラを行った社員への対応方法
セクハラがなされたという事実確認がなされた場合には、加害者に対して懲戒処分を行うかを検討しなければなりません。もちろん、懲戒処分については就業規則に根拠がなければ実施することはできません。
懲戒処分については戒告や譴責といった比較的軽いものから、減給や出勤停止や懲戒解雇といった身分や給与に及ぶものまで種類があります。ただ、就業規則に定めがあったとしても事案について過剰な懲戒処分であればそれは無効となります。懲戒処分の内容については合理的な理由や社会通念上相当であることが求められます。
具体的には下記の事情を考慮することになります。
①セクハラの具体的な内容
②回数や期間や頻度
③被害の程度
④被害者の人数
⑤加害者と被害者の立場
⑥謝罪や反省がなされているか
⑦過去に処分を受けたことがあるか
5.セクハラに対する最高裁判所平成27年2月26日判決
(1)事案の概要
① 上告人の男性従業員である被上告人らが、それぞれ複数の女性従業員に対して性的な発言等のセクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」という。)等をしたことを懲戒事由として上告人から出勤停止の懲戒処分(以下「出勤停止処分」という。)を受けるとともに、これらを受けたことを理由に下位の等級に降格されたことから、上告人に対し、上記各出勤停止処分は懲戒事由の事実を欠き又は懲戒権を濫用したものとして無効であり、上記各降格もまた無効であるなどと主張して、上記各出勤停止処分の無効確認や上記各降格前の等級を有する地位にあることの確認等を求めていた事案。
②高等裁判所では、懲戒処分等が無効であると判断されていた。
③被上告人X1のセクハラの内容は以下のとおり。
1 被上告人X1は、平成23年、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、複数回、自らの不貞相手と称す る女性(以下、単に「不貞相手」という。)の年齢(20代や30代)や職業(主婦や看護師等)の話をし、不貞相手とその夫との間の性生活の話をした。
2 被上告人X1は、平成23年秋頃、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」と言った。
3 被上告人X1は、平成23年、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、複数回、「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」、「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな。」、「でも家庭サービスはきちんとやってるねん。切替えはしてるから。」と言った。
4 被上告人X1は、平成23年12月下旬、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、不貞相手の話をした後、「こんな話をできるのも、あとちょっとやな。寂しくなるわ。」などと言った。
5 被上告人X1は、平成23年11月頃、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、不貞相手が自動車で迎えに来ていたという話をする中で、「この前、カー何々してん。」と言い、従業員Aに「何々」のところをわざと言わせようとするように話を持ちかけた。
6 被上告人X1は、平成23年12月、従業員Aに対し、不貞相手からの「旦那にメールを見られた。」との内容の携帯電話のメールを見せた。
7 被上告人X1は、休憩室において、従業員Aに対し、被上告人X1の不貞相手と推測できる女性の写真をしばしば見せた。
8 被上告人X1は、従業員Aもいた休憩室において、本件水族館の女性客について、「今日のお母さんよかったわ…。」、「かがんで中見えたんラッキー。」、「好みの人がいたなあ。」などと言った。
④被上告人X2のセクハラの内容は以下のとおり。
1 被上告人X2は、平成22年11月、従業員Aに対し、「いくつになったん。」、「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」と言った。
2 被上告人X2は、平成23年7月頃、従業員Aに対し、「30歳は、二十二、三歳の子から見たら、おばさんやで。」、「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」、「精算室に従業員Aさんが来たときは22歳やろ。もう30歳になったんやから、あかんな。」などという発言を繰り返した。
3 被上告人X2は、平成23年12月下旬、従業員Aに対し、Cもいた精算室内で、「30歳になっても親のすねかじりながらのうのうと生きていけるから、仕事やめられていいなあ。うらやましいわ。」と言った。
4 被上告人X2は、平成22年11月以後、従業員Aに対し、「毎月、収入どれくらい。時給いくらなん。社員はもっとあるで。」、「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。したらええやん。」、「実家に住んでるからそんなん言えるねん、独り暮らしの子は結構やってる。MPのテナントの子もやってるで。チケットブースの子とかもやってる子いてるんちゃう。」などと繰り返し言った。
5 被上告人X2は、平成23年秋頃、従業員A及び従業員Bに対し、具体的な男性従業員の名前を複数挙げて、「この中で誰か1人と絶対結婚しなあかんとしたら、誰を選ぶ。」、「地球に2人しかいなかったらどうする。」と聞いた。
6 被上告人X2は、セクハラに関する研修を受けた後、「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなあ。」、「あんなん言われる奴は女の子に嫌われているんや。」という趣旨の発言をした。
(2)裁判所の判断
(結論)
裁判所は、記各出勤停止処分を理由とする各降格は、上告人において人事権を濫用したものとはいえず、有効なものとして、被上告人らの請求を退けた。
(理由)
① 被上告人らの行為は、女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる(行動の悪質性)。
② 会社ではセクハラ防止を重要課題を位置付けて取り組みを行っている中で、被上告人らは管理職にあり、セクハラ防止のために指導すべき立場の人物であった。
③ 従業員が結果として辞めることになったという影響が大きかった。
④ 原審は、被上告人らが従業員Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず、本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたなどとして、これらを被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが、職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられることや、上記(1)のような本件各行為の内容等に照らせば、仮に上記のような事情があったとしても、そのことをもって被上告人らに有利にしんしゃくすることは相当ではない。
⑤ 原審は、被上告人らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する上告人の具体的な方針を認識する機会がなく、事前に上告人から警告や注意等を受けていなかったなどとして、これらも被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが、上告人の管理職である被上告人らにおいて、セクハラの防止やこれに対する懲戒等に関する上記(1)のような上告人の方針や取組を当然に認識すべきであったといえることに加え、従業員Aらが上告人に対して被害の申告に及ぶまで1年余にわたり被上告人らが本件各行為を継続していたことや、本件各行為の多くが第三者のいない状況で行われており、従業員Aらから被害の申告を受ける前の時点において、上告人が被上告人らのセクハラ行為及びこれによる従業員Aらの被害の事実を具体的に認識して警告や注意等を行い得る機会があったとはうかがわれないことからすれば、被上告人らが懲戒を受ける前の経緯について被上告人らに有利にしんしゃくし得る事情があるとはいえない。
(3)判例考察
本件のセクハラ行為はどれも悪質であり、1年もの長期間にわたっていることから懲戒は当然と思われるところですが、高等裁判所では会社側は敗訴し、被上告人(上司)らの請求が認められています。セクハラに対しては断固たる態度で臨む必要はあると思いますが、間違えてしまえばセクハラをした側を正当化してしまうことにもなりかねないので、それに対する態度は慎重にしなければならないということがわかります。
6.まとめ
セクハラは、企業の側に多くの責任と損害を与えるものです。
企業は、絶対にセクハラ問題を起こしてはならず、セクハラを防止するための対策を十分に行わなければなりません。
また、セクハラ問題が生じてしまった場合には適切な対応をして問題を解決していかなければなりません。
桜花法律事務所では、セクハラ防止のための対策やセクハラ問題が生じてしまった場合の対応について、適切な対応と適切な手続と対処についてのサポートをすることができます。セクハラの問題の対応を迫られた場合にはご相談ください。
検索
カレンダー
< |
> |
|||||
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |