弁護士コラム
Column

自己破産における支払不能時期

投稿日 :
2023-07-05 21:12:21
カテゴリ :
債務整理
WRITER :
桜花法律事務所 上野健太

1 条文

破産法 第2条

第11項 この法律において「支払不能」とは,債務者が,支払能力を欠くために,その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。

破産法 第15条

第1項 債務者が支払不能にあるときは,裁判所は,第30条第1項の規定に基づき,申立てにより,決定で,破産手続を開始する。

第2項 債務者が支払を停止したときは,支払不能にあるものと推定する。

このように、「支払不能」とは①支払能力を欠いていること②弁済期にある債務を弁済できないこと③一般的かつ継続的に債務を弁済することができないことを指すとされます。

2 支払能力を欠く状態

 債務者の弁済能力は、技術・労力・信用などの無形の資産も考慮すべきことから、これら無形の資産を活用して弁済を続けることができる場合には「支払い能力を欠く」とはいえません。

 そのため、無形資産も含めてあらゆる手段を尽くしても弁済できない状態になったことを「支払い能力を欠く」といいます。

 たとえ財産があったとしても、それを売却できないような場合であれば、支払能力を欠くとみなされます。

3 一般的かつ継続的に債務を弁済することができない状態

(1)「一般的」とは

  ここでいう一般的にとは、全体的に弁済能力が不足しているために、その債務についても弁済できない状態のことです。

  たとえ、財産をかき集めて債務の一部を弁済したとしても、残りの債務を弁済できないのであれば「一般的に」弁済できない状態とみな

 されます。

(2)「継続的」とは

  ここでいう継続的とは、弁済能力のない状態が継続しているという状態のことです。

  単なる一時的な資金不足は、「継続的」な弁済能力がない状態とはいえませんが、逆に、一時的な借り入れにより弁済能力があるように

 みえても、客観的に資力が不足していれば「継続的に」弁済できない状態にあると見なされます。

4 裁判例

「債務者が弁済期の到来している債務を現在支払っている場合であっても、債務者が無理算段をしているような場合、すなわち全く返済の見込みの立たない借入や商品の投げ売り等によって資金を調達して延命を図っているような状態にある場合には、糊塗された支払能力に基づいて一時的に支払をしたにすぎない」(高松高裁平成26年5月23日判決)。

「表面上は、弁済期の到来した債務を支払っていたとしても、返済の見込みのない借入等によって資金を調達して延命を図っているような状態にある場合」は支払不能が認められています(東京地裁平成22年9月16日判決)。

5 支払不能後の弁済

 支払不能後に債務を弁済した場合、偏波弁済となり、自己破産における免責不許可事由となる上、破産管財人の「否認権」行使の対象ともなるため、弁済自体が認められない可能性があります。

 上記のとおり、弁済を続けていたからといって、支払不能に陥っていないとは限らず、客観的には支払不能であったとみなされるケースも多々あるため、破産等の債務整理を予定している場合には支払不能後の弁済とならないよう慎重な検討が必要となります。

 

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