弁護士コラム
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整理解雇の4要件について

投稿日 :
2025-05-21 20:04:19
カテゴリ :
企業法務
WRITER :
桜花法律事務所 中島俊明

整理解雇の4要件について

 

<目次>

・整理解雇とは

・整理解雇の4要件

・根拠法令

・根拠判例

・労働者から改善の要望を受けた企業の方へ

屋外, 人, 草, 道路 が含まれている画像

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・整理解雇とは

整理解雇とは、使用者の経営上の理由によって生じた人員削減の必要性に基づき労働者を解雇することです。例えば、会社が赤字続きでこのままでは倒産しそうという理由で社員を解雇する場合、リーマンショックのような経済状況の急変に伴い社員を急に解雇する場合、会社は黒字ではあるが、会社の経営戦略上、ある部門を閉鎖して他の部門と合併させるに当たって余剰人員を解雇する場合などです。

整理解雇も解雇の一種として解雇権濫用法理(労契法16条)が適用されます。そして、整理解雇は、労働者に帰責性がないにもかかわらず使用者側の経営事情により解雇されるものなので、裁判実務上は判決の集積により、以下のような整理解雇4要件ないし4要素に基づいて、解雇の有効性が普通解雇よりも厳格に判断されています。

・普通解雇や懲戒解雇との違い

整理解雇とは、企業が経済的な理由により人員の削減を迫られた際に講じる雇用調整の一形態です。たとえば、資金繰りの悪化により支店や部門の縮小・廃止を余儀なくされ、そこで働く従業員を一定数まとめて退職させなければならない場面で用いられます。実務上、大規模な従業員に対して同時期に通知されるケースが多く見られます。

一般の解雇(普通解雇)や懲戒解雇が、主として従業員側の勤務態度や規律違反といった事情に基づいて行われるのに対し、整理解雇は経営悪化や事業再編など、使用者側の経営上の事情に起因する点に特徴があります。

日本では、長期的な雇用関係が前提とされる雇用慣行が根強く、労働者の生活保障とのバランスを踏まえた制度運用が求められています。そのため、使用者の一方的判断で経営上の理由による解雇が濫用されることを防ぐ必要があり、整理解雇の適法性については、通常の解雇以上に厳格な法的審査が加えられることになります。

この観点から、裁判実務では、整理解雇が権利の濫用と評価されないために満たすべき判断基準として、「人員削減の必要性」「解雇回避努力の履行」「被解雇者の選定基準の合理性」「解雇手続の妥当性」という4つの要素が確立されており、それぞれの要件の充足状況が総合的に考慮されて有効性が判断されています。

 

・根拠法令 労働契約法第16条(解雇)

テキスト, 手紙

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解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、無効とする。

→労働契約法第16条では、上記のように定めており、「客観的で合理的な理由」があり「社会通念上相当」なものでない限り、解雇は認められず、裁判所で無効とされます。日本の法律では、解雇は簡単にはできません。特に、整理解雇の場合は、その解雇が有効と認められるためには、整理解雇の4要件を充足しているかどうかが問われる。

 

 

・整理解雇の4要件

整理解雇の有効性を判断する要件(要素)として、
人員削減の必要性があること、
解雇回避努力義務を尽くしていること、
合理的な人選基準を立て、これを適正に運用していること、
整理解雇に当たって労働者・労働組合の納得を得られるように誠実に説明・協議を尽くしていること、

4つがあります。

この4つについては、1つでも欠ける場合には整理解雇が無効であるとして「要件」と考える裁判例もありますが、近時の裁判例は、これらの1つでも欠けたら直ちに整理解雇が無効であると考えるのではなく、4つを総合的に判断して整理解雇が無効であるかどうかを判断する「要素」とするものが多い傾向にあります。もっとも、これらの傾向が整理解雇法理の全面的な規制緩和をもたらしているわけではなく、裁判例は、市場競争の激化や企業再編等の新たな動向をふまえて整理解雇法理を適宜修正しつつ、使用者の恣意的な解雇をチェックする姿勢を堅持しているといえます。また、これらの4要素のいずれかを全く欠く場合には、他の要素の充足によってこれを補うのは相当でなく、整理解雇を無効とすべきです。

 

・①人員削減の必要性

雪の上で演奏している人たち

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人員削減の必要性について、裁判例では、倒産必至又は近い将来の倒産が予見される状況にあることまで要求するもの、客観的に高度の経営危機を要求するもの、企業の合理的運営上の必要性で足りるとするものなどがあります。人員削減の必要性と他の要素との間では相関関係があり、例えば、人員削減の必要性はあるけれども、緊急性はそれ程高くない場合であれば、解雇回避努力義務はより高度のものが求められるといえます。よって、人員削減の必要性はその有無だけではなく、その程度も重要な要素となります。

そして、その人員削減の必要性の有無及び程度については、
人員削減の要否という経営判断の前提となる事実認識の過程において、どの程度の情報を収集し、どのような視点からその分析・検討をしたか、
及び、
その事実認識に基づき、人員削減の必要性があるとの経営判断に至った意思決定の推論過程および内容に、どの程度の合理性を認めることができるかといったような評価枠を設定し、結論そのものの合理性を直接的に評価するのではなく、判断資料の取捨選択の合理性や判断プロセスの合理性を評価対象に加えて総合的に評価することとし、評価の仕方の点で経営判断の尊重を念頭に置きつつも、主張立証責任の点で使用者側に人員削減の必要性の有無ないし程度を具体的かつ積極的に主張立証させるとの見解が参考になります。つまり、使用者がどういった情報を集めてどのような事実を認識し、その認識した事実に基づいて人員削減が必要との判断に至ったのか、その具体的プロセスの内容を使用者に主張・立証させるべきでしょう。

人員削減の必要性の有無及び程度の判断材料となる事情には、収支や借入金の状態、取引先との取引量の動向、資産状況、人件費や役員報酬の動向、社員の採用動向、業務量、株式配当などがあります。

人員削減の対象は、その必要性に見合った適正な範囲であることが要請され、その範囲を超える人員削減は許されません。希望退職募集や退職勧奨が行われて既に多数の自主退職者がおり、人員削減がある程度達成されている中で更に整理解雇が行われたような場合には、その人員削減が本当に必要なのかを検討する必要があります。人員削減の目標人数などの具体的数値が設定されることも多いので、その人数設定の合理性とともに、その目標の達成度合いなどを確認することも、人員削減の必要性の有無及び程度の判断に有用でしょう。

裁判例では、「緊急の必要性を満たしていなくても、整理解雇は直ちに無効であるとはいえないが、深刻な経営危機に直面した場合の整理解雇に比べると、解雇をやむを得ないと言えるだけの事情が存在するか、解雇回避努力義務など他の要件(要素)についてはより慎重に吟味されるべきである」と示したものがあります(ゾンネボード製薬事件/東京地方裁判所平成5年2月18日決定)。

 

②解雇回避努力義務の履行

ノートパソコンを使っている男性

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整理解雇は労働者に帰責性のない使用者の経営事情に基づく解雇ですから、雇用保障の観点から、使用者には、企業規模や経営状態など具体的事情の下において整理解雇を避けるためにでき得る限りの措置の履行が求められます。特に、経営戦略型の整理解雇の場合には、解雇回避措置を十二分に講じることができたはずであり、それにもかかわらず整理解雇に及ぶことが正当化されるのは、相当手厚い解雇回避措置が取られた後でなければならないというべきです。具体的には、経費削減、役員報酬の削減、残業規制、新規採用の停止縮小・中途採用や再雇用の停止、従業員に対する昇給停止や賞与の減額・不支給、賃金減額、配転・出向・転籍の実施、ワークシェアリングによる時短や一時帰休、非正規従業員との間の労働契約の解消、希望退職者の募集等のうち、複数の措置が検討されることが多いでしょう。

例えば、全社的な退職募集が、熟練従業員の引き抜きを誘発することを使用者がおそれたなどの事情があったことにより、希望退職者の募集をしなくても解雇回避努力を怠ったとはいえないと判断した裁判例があります(東洋酸素事件/東京高等裁判所昭和541029日判決)。

また、他の裁判例でも、一部の支店で希望退職者の募集を実施していなかったことについて、当該支店は21名の小さな支店で、その業務は専門的知識や高度な能力を必要とする部分があって、誰でもこなし得る業務ではないことから、小規模な職場で希望退職者を募ることは代替不可能な従業員や有能な従業員が退職して業務に混乱が生じる可能性があるとして、当該支店で希望退職者を募集していないとしても、解雇回避努力を尽くしていると判断したものがあります(シンガポールデベロップメント銀行事件/大阪地方裁判所平成12年6月23日判決)。

したがって、会社において、どうしても希望退職者の募集を実施できない事情があるのであれば、当該募集を経ずに整理解雇に踏み切ることも可能といえます(ただし、これによって、他の要素がより厳しく判断される可能性はあります)。

なお、特別退職金の支給を約束し、解雇通告時に退職金を上乗せしたこと、就職あっせん会社のサービスを受けるための金銭援助を、再就職先が決まるまで無期限で行うと約束したこと、同一グループ内の他企業の職と、退職後の1年間は賃金減少分の補償を提案したことなどを理由として、解雇を有効とした裁判例があります(ナショナル・ウエストミンスター銀行事件/東京地方裁判所平成12年1月21日決定)。

 

③合理的な人選基準の設定と適正な運用

建物, 記号, ストリート, 火 が含まれている画像

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整理解雇の対象者の人選は恣意的なものではならず、客観的で合理的な基準を設定し、その基準を適正に当てはめ運用していることが必要です。具体的な人選基準の分類としては、勤務態度の優劣(欠勤日数、遅刻回数、規律違反歴等)、労務の量的貢献度の多寡(勤続年数、休職日数等)、労務の質的貢献度の多寡(過去の実績、業務に有益な資格の有無等)、企業との間の密着度の高低(正規従業員・臨時従業員等の別等)、労働者側の事情(年齢、家族構成、共稼ぎか否か等)のいずれか、あるいはその組合せとして挙げられているのが参考になります。正規従業員よりも非正規従業員を優先的に解雇する基準の合理性は肯定されるものも多いですが、近時は非正規従業員であっても正規従業員と同様に基幹的労働者として長期間雇用され、業務内容も正規従業員と同様の場合も多いので、正規従業員と非正規従業員の役割りや業務内容などの実質をみて基準の合理性を判断することが重要です。

なお、パート従業員など臨時従業員の解雇が、正社員よりも優先されることについては、合理性があると判断した裁判例があります(日立メディコ事件/最高裁判所昭和6112月4日判決)。

④整理解雇手続きの妥当性

人, 屋内, 女性, テーブル が含まれている画像

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使用者は労働組合や労働者に整理解雇の必要性とその内容(時期・規模・方法)や解雇に対する補償内容などについて納得を得るように説明を行い、誠意をもって協議しなければなりません。

労働協約に、整理解雇を行うに当たって労働組合との協議を経なければならないといった協議・説明事項がある場合に、説明や協議をしないでなされた整理解雇は無効となります。

 

・労働者から改善の要望を受けた企業の方へ

整理解雇の場合は、前記のように「整理解雇の4要件」に照らして、それが充たされているか充足状況が問われ、根拠判例のほか、オクト事件(大阪地裁平成13727日)、ナショナルエージェンシー事件(大阪地裁平成14322日)、九州日誠電気事件(熊本地裁平成16415日)、財団法人ソーシャルサービス協会事件(東京地裁平成251218日)など、会社が裁判で負ける例も多いのが実情です。

特に、「人員削減の必要性」と「解雇回避の努力」は重要で、「解雇回避の努力」について、「希望退職の募集」などを講じずにいきなり整理解雇を行ったような事案では、ほとんどが解雇無効となっています。したがって、あまり安易に考えることなく、慎重な判断が求められます。

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