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出向と転籍のちがいについて
- 投稿日 :
- 2024-05-30 08:57:13
- カテゴリ :
- 企業法務
- WRITER :
- 桜花法律事務所 中島俊明
出向と転籍の違いについて
目次
「出向」とは、雇用先企業の従業員としての地位を保持したまま、他企業の事務所で相当長期間にわたり労務に従事させる人事異動のことを指します。代表的な例として、親会社の従業員が子会社や関連会社に出向して労務に従事するケースが挙げられます。
1. 出向命令権の根拠があること
労働契約上、出向命令権の根拠が必要です。労働契約法第14条には使用者がいかなる場合に出向を命じるかについて定めがないため、判例法理に基づくことになります。
ただし、出向命令は単なる配転と異なり、労務提供先が変わり、労働条件も大きく変更されるため、重大な利害関係が生じます。そのため、労働契約において、出向命令権が明確に規定されている必要があります。就業規則に「業務の都合上出向を命じることがある」とだけ定めていても、出向先の労働条件や復帰条件が明確でなければ、出向命令は無効とされた判例があります(日本レストランシステム事件・大阪高判平17.1.25)。
2. 強制法規違反がないこと
出向命令が強制法規に違反していないことが必要です。例えば、組合活動の妨害を目的とする不当労働行為(労働組合法第7条)や、思想信条による差別(労働基準法第3条)に該当する場合は無効となります。
3. 労働協約違反、就業規則違反がないこと
労働協約や就業規則に違反してなされた出向命令は、通常無効です。
4. 権利濫用でないこと
出向命令権がある場合でも、権利濫用に該当する場合は無効です。
「転籍」とは、現在の企業との労働契約関係を終了させ、新たに他企業との間に労働契約関係を結び、その企業で業務に従事する人事異動のことです。転籍には、①合意解約と新契約締結、②使用者の地位の譲渡という方法があります。いずれの場合も、労働者の同意が必要です。
出向は、現在の企業との労働契約が継続するのに対し、転籍は現在の労働契約が終了する点で決定的に異なります。企業において「長期出張」「社外勤務」「応援派遣」「休職派遣」などの勤務先変更があり得ますが、これらは労働契約が継続するか終了するかにより、出向と転籍に分類されます。
1. 労働者の個別的同意
転籍には、労働者の個別的な同意が必要です。労働協約や就業規則の転籍条項を根拠に命じることはできません(日東タイヤ事件・最判昭48.10.19、ミクロ製作所事件・高知地判昭53.4.20)。
2. 事前の包括的同意
例外として、事前に包括的同意があったと認定される場合、転籍命令の拘束力が認められることがあります。例えば、日立精機事件では、親会社の入社案内に子会社が勤務地の一つとして明記され、採用面接で転籍の可能性が説明されていたため、包括的同意が認定されました(千葉地判昭56.5.25)。
出向は従業員が元の企業に在籍しながら他企業で働くことを指し、出向命令が有効であるためには、労働契約上の根拠、法規遵守、労働協約や就業規則違反がないこと、権利濫用でないことが必要です。
転籍は現在の企業との労働契約を終了し、新たに他企業との契約を結ぶことを指し、必ず労働者の個別同意が必要です。出向は元の企業との契約が継続し、転籍は契約が終了する点が異なります。
企業の皆様で出向や転籍についてお悩みがある場合は、桜花法律事務所へご相談ください。
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