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懲戒解雇とは?

投稿日 :
2024-03-26 13:11:38
カテゴリ :
企業法務
WRITER :
桜花法律事務所 中島俊明

懲戒解雇とそれによる企業のリスクについて


目次

・懲戒解雇とは

・懲戒解雇と普通解雇の違い

・懲戒解雇の有効性ついて

・懲戒解雇なった事例

・懲戒解雇よる企業側のデメリット

・デメリットを軽減する方法

・まとめ

 

・懲戒解雇とは。

懲戒」とは。企業が事業活動を維持・運営するために不可欠な企業秩序の違反行為に対して、使用者によって課せられる一種の制裁罰のことを言います。

 その中でも懲戒解雇とは最も重い懲戒処分で、予告期間を設けることなく即時に解雇するというものです。

 

・普通解雇と懲戒解雇の違い

懲戒解雇と普通解雇では、その根本にある理由や効果に明確な違いがあります。

 

解雇の性質の違い

懲戒解雇は、従業員の重大な違反行為や不適切な行動に対する罰として行われます。これは会社のルール違反など、従業員の責任によるもので、企業からの一方的な契約終了となります。

普通解雇は、従業員の債務不履行や業務遂行能力の不足など、仕事の遂行に関連する問題が原因で発生します。この場合、解雇は制裁ではなく、契約を継続することの困難さに基づくものです。

解雇予告の違い

解雇の際は通常、30日前の予告期間が必要です。これは、普通解雇でも懲戒解雇でも同様ですが、懲戒解雇の場合、労働者の過失が明確であれば、労働基準監督署の認定を受けることで予告なしに解雇できるケースもあります。

普通解雇では、解雇予告手当の支払いが基本となり、特別な例外は設けられていません。

退職金の違い

退職金の扱いも異なります。普通解雇の場合、通常は退職金が支払われ、その条件は就業規則に基づきます。

対照的に、懲戒解雇された従業員は、企業の退職金規定に「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない」と明記されている場合、退職金が減額されるか、または全く支給されないことがあります。

このように、普通解雇と懲戒解雇は解雇を行う理由、法的な手続き、従業員への影響など、多くの面で異なります。企業はこれらの違いを正確に理解し、適切な状況判断を行うことが重要です。

 

・厚生労働省が示す懲戒解雇の有効性

1、 法的枠組みの適用:懲戒解雇は、労働契約法の第15条(懲戒)および16条(解雇)の両方に基づく規制が適用されます。これは、懲戒解雇が単に労働者の行為に対する懲罰ではなく、解雇としての法的要件も満たさなければならないことを意味します。

2、 就業規則の具体性:使用者が労働者を懲戒解雇するには、まず就業規則に懲戒事由と懲戒の範囲を明確に定めておく必要があります。これは、懲戒解雇の前提条件として、企業が事前に具体的な規則を設けておくことが求められることを示しています。

3、 客観的かつ合理的な理由:懲戒解雇を行うためには、労働者の行為が客観的かつ合理的な理由であることが必要です。この点では、解雇事由が社会通念上妥当であるかが評価されます。

4、 社会通念上の相当性:たとえ労働者の行為が懲戒解雇の事由に該当するとしても、その行為が社会通念上相当であるかどうかが問われます。これは、解雇の重さが行為の重大性と比較して妥当か、従業員間で公平な扱いがされているか、適正な手続きが踏まれているか等の観点から判断されます。

 

要するに、懲戒解雇が法的に有効であるためには、企業が明確な基準と手続きを事前に設定し、それに基づいて公平かつ客観的に解雇の判断を行う必要があります。また、解雇の理由が重大であるだけでなく、解雇という措置がその行為に対して社会通念上適切であるかどうかも重要な判断基準となります。

 

・懲戒解雇となった事例


ある女子大学の男性教授(X)が、女性職員や学生に対してセクシュアルハラスメント行為を行ったとして懲戒解雇された事案です。教授は、この懲戒解雇が不当だと主張して訴訟を起こしました。

第一審の判断:第一審では、大学側が主張する11件のセクハラ行為のうち、実際に認められたのは1件のみで、その1件の行為だけでは懲戒解雇に至るほど悪質ではないと判断され、懲戒解雇は無効とされました。

控訴審の判断:控訴審では、セクシュアルハラスメントの被害者とされる女性職員の証言が新たに導入され、その結果、原告が行ったとされる11件のセクハラ行為がすべて認められました。これらの行為は、多数に及び、大学の信用や評判を大きく損ねるものであり、加えて、原告による同種の行為の再発リスクが非常に高いと評価されました。

裁判のポイント:この裁判では、セクシュアルハラスメント行為の有無と

相違性に重点が置かれました。第一審と控訴審で異なる結果になったのは、被害者の証言がどれだけ重要であるかを示しています。また、懲戒処分の適切性を判断する際には、行為の悪質性だけでなく、被告の地位、再発リスク、および組織全体への影響など、様々な要素が総合的に評価されることが明らかにされました。

 

・懲戒解雇による企業側のデメリット

  敗訴とそのコスト

もし裁判で敗訴すれば、その影響はかなりのものです。懲戒解雇が無効とされると、解雇された従業員を再雇用し、期間中の給与を支払う必要が生じます。

例えば裁判が1年間長引いた場合、月給30万の人には30万×12カ月=360万円支払う必要があります。

 

  手間と時間の消費

労働問題の解決方法には、労働審判と正式裁判の2種類があります。前者は比較的短期間で解決する可能性がありますが、後者になると1年以上を要することもあります。これには、弁護士への支払だけではなく、証拠収集や証言など、企業側の多大な時間と労力が求められます。

 

  信用と評判の損失

企業が不適切な理由で従業員を解雇すると、その情報が急速に広まる現代では、企業の信用と評判に莫大な損害を与える可能性があります。特に、解雇された従業員やその周辺からの否定的な意見がソーシャルメディアを通じて拡散されると、一般公開された批判は企業のブランドイメージを瞬時に傷つけます。このような評判の損失は、回復するのに時間と努力を要し、長期的に企業活動に影響を及ぼすことがあります。

 

  助成金の制限

懲戒解雇を行うと、助成金の受給資格にも影響を及ぼすことがあります。多くの助成金プログラムは、企業が一定期間内に従業員を解雇していないことを条件としています。したがって、懲戒解雇を行うことにより、企業が受けられるはずの助成金の利用が制限される場合があります。これにより、人材育成や雇用維持に向けた支援が得られなくなり、企業の運営資金や人材開発計画に不利な影響を与える可能性があります。このような制限は、企業の成長機会を損なうだけでなく、経済的な負担を増大させることにも繋がります。

 

・デメリットを軽減する方法

弁護士に相談する:まず弁護士に相談し、懲戒解雇の法的基準や適切な手続きについてアドバイスを受けることが重要です。専門家の意見を参考にすることで、不当な解雇を避け、企業のリスクを低減できます。

 

普通解雇を検討する:また、普通解雇の選択肢を検討することも一つの方法です。これは、特定の条件の下でのみ可能な解雇方法であり、企業が労働者の解雇を考える際に、より柔軟な選択肢を提供します。

 

・まとめ

・懲戒解雇とは企業が重大な違反行為に対して行う最も重い懲罰であり、予告期間なしに即座に解雇可能。

・普通解雇は業務遂行能力の不足等の理由で行われ、解雇予告手当の支払いが基本。懲戒解雇は違反行為が原因。

・懲戒解雇は特定の法的要件と手続きを満たす必要がある。

・不適切な手続きは企業に敗訴リスクや評判損失などのデメリットをもたらす。

 

もしお困りのことがありましたら、桜花法律事務所までご相談ください。

当社は企業の解雇の判断を公平かつ客観的に行い、適切な法的アドバイスをお与え致します。

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