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労働者とは何か。業務委託や請負との違いを説明
- 投稿日 :
- 2024-03-13 13:31:03
- カテゴリ :
- 企業法務
- WRITER :
- 桜花法律事務所 中島俊明
「労働者とは何か?」
皆さんは労働者と聞いてどのような人を思い浮かべますか?
労働者という言葉の背後には、請負や業務委託といった様々な働き方が存在し、これらはしばしば法律や社会保障の枠組みにおいて異なる扱いを受けます。一見、自由度の高い働き方として魅力的に見える業務委託契約でも、期待していた以上に厳しい現実に直面することがあります。特に、労働者性の認定がなされると、残業代の支払い義務が生じるなど、予期せぬ法的責任に直面することも少なくありません。
本記事では、労働者としての地位と、それがなぜ重要なのか、また請負や業務委託との違いとは何かに焦点を当てます。さらに、業務委託と考えていた契約が実際には労働者性を持つと認定される場合の影響についても探求し、労働市場におけるこれらの区分が個々の労働者にどのような意味を持つのかを解き明かします。
目次
・労働者性について~業務委託契約でも労働者認定される場合がある
労働者とは労働基準法の「労働者」と労働組合法の「労働者」が存在します。
労働基準法の適用対象である「労働者」の範囲と、労働組合法の適用対象である「労働者」の範囲は異なっています。
「労働者」の定義について、労基法では「職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」(第9条)としています。
つまり、労基法の保護を受ける労働者とは。次の3つの要件にすべて該当する者をいいます。
1事業または事務所に使用されている
2使用者の指揮命令下に置かれている
3賃金の支払を受けている
したがって、正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイトなどの名称に関わらず、上記の3要件を満たせば、すべて「労働者」として取り扱われ、労基法の保護を受けることになります。
業務委託とは
民法上、「業務委託」とは「請負契約」と「委任/準委任契約」の2つの総称であります。
そのため、業務委託についてよくある誤解の1つとしては、それが特定の契約形態を指すということですが、実際にはそうではありません。「業務委託」という言葉自体は、法律上定められた正式な契約種類を指すものではなく、むしろ「請負契約」と「委任契約」を包括する際に使われる実務上の総称です。契約を結ぶ際に「業務委託契約書」という文書を用いることはありますが、これは法的な用語ではないという点を理解しておくと役立ちます。
業務委託の本質について深堀すると、これは自社だけでは手が回らない業務を外部の企業や個人に依頼することを意味します。ここでのポイントは、仕事を外部に出すことで、自社の人員をより適切に配置し、組織をスリムに保つことが目的です。この際、仕事を依頼する側と受ける側は雇用関係を結ばず、対等な立場で仕事を進めていきます。
請負契約とは
「業務委託」とは「請負契約」と「委任契約」の総称と書きました。
一般的に業務請負とはここでの「請負契約」のことを指します。
民法第632条によると、請負契約は「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」とされています。つまり、この契約は、一方の当事者が特定の作業を完了させること、そしてもう一方がその成果に対して報酬を支払うことに合意することにより、その力を発揮します。これは、成果物やサービスを外部から依頼する際に用いられる契約形式であり、進行過程における細かな指示出しは原則として行われません。たとえば、企業が自社のパンフレット制作を外部のデザイン会社に依頼し、完成したパンフレットを納品してもらう場合がこれに該当します。
雇用関係:労働者は雇用されているため、会社の指示に従って働きます。請負や業務委託では、外部の個人や会社が独立した立場で仕事を行い、成果物やサービスを提供します。
報酬の基準:労働者は時間や日数に基づいて給料を受け取りますが、請負や業務委託では成果物や完成した業務に基づいて報酬が支払われます。
指示の内容:労働者は働く場所、時間、方法などを会社から指示されます。しかし、請負や業務委託では、成果物や業務の達成を目的としており、その過程や方法は請負人や委託された個人・会社の裁量に委ねられます。
要するに、労働者は会社の一員として働き、会社の指示に従います。一方で、請負人や業務委託は外部の独立した個人や会社が特定の成果やサービスを提供する関係で、雇用関係にはありません。
ただし労基法では、「同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」(第116条第2項)として、労働者の適用除外者を認めています。
「労働者性」という用語は、ある個人が労働法の観点から「労働者」として認識されるかどうかを示す概念です。つまり、その人が労働関連の法律や保護の対象となるかどうかを決定するための基準です。
労働者性の認定は、個人が給与を得るために労働を提供しているか、そしてその労働が雇用主の指揮・監督下で行われているかどうかに基づいています。この基準は、正社員、契約社員、アルバイト、派遣労働者など、様々な雇用形態にわたる人々が、労働法によって保護されるべき対象であるかを判断する際に用いられます。
・労働者性について~業務委託契約でも労働者認定される場合がある~
労働者であるかどうか判断する際、重要なのは契約の形態よりも、実際の働き方です。たとえ、業務委託契約を結んでいる場合でも、会社からの具体的な指示や監督下で働いていると、労働者とみなされる可能性があります。
労働者と判断されるかどうかは、実際の働き方や労働環境に基づいて決定されます。一般的に以下のような基準が考慮されることが多いです。
⑴ 指揮監督の下での業務実施:業務が企業の指揮監督下で行われるかどうか。つまり、労働者が企業から具体的な業務の内容、方法、時間、場所などに関する指示を受けているか。
⑵ 業務の拘束性:労働者が特定の時間や場所で業務を行う必要があり、自由に地の業務を選択したり、時間を調整したりすることが出来ない程度。
⑶ 業務遂行上の自由度:業務を遂行する際の自由度。業務の方法や進め方において、自分自身で決定や選択が出来るかどうか。
⑷ 経済的依存性:その仕事に対する経済的依存度が高いかどうか。特定の企業からの報酬が収入の大部分を占めている場合など。
⑸ 報酬の性質:報酬が労働の対価として支払われるかどうか。時間単位や月単位での固定給、作業量に応じた給料など。
⑹ 専門性:その業務が専門的な知識や技能を必要とするかどうか、またその知識や技能を使って独立して業務を行うか。
⑺ 代替性の有無:労働者が自分自身の代わりにほかの人を業務につけることができ、それによって個人のスケジュールの柔軟性が高まります。
⑻ 機械や器具の負担関係:業務遂行に必要な機械や器具を誰が提供するか。企業側が提供している場合は、労働者性が高いと判断される可能性があります。
⑴ 残業代の支払
通常、業務委託契約では残業代は支払われませんが、労働者を判断された場合、行った残業に対して最大3年分の残業代を支払わなくてはなりません。
⑵ 社会保険料の納付
労働者とされた場合、社会保険料を遡って納付することになるかもしれません。この納付は最大2年分遡及されることがあり、残業代の支払とあわせると、大きな金額になる恐れがあります。
労働者性の認定は、契約の種類ではなく、実際の働き方で決まります。業務委託契約でも、会社の指示に従い固定の時間と場所で働く場合、労働者とみなされることがあります。この認定がされると、残業代の支払いや社会保険料の納付など、追加の責任が生じる可能性があります。労働者としての保護を受けるためには、実際の働き方が重要です。
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