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就業規則の重要性~企業の義務とリスク~
- 投稿日 :
- 2024-03-07 13:28:53
- カテゴリ :
- 企業法務
- WRITER :
- 桜花法律事務所 中島俊明
「就業規則の重要性:企業の義務とリスク」
目次
就業規則とは、各事業場において労働者が遵守しなければならない就業上の規律、職場秩序、労働条件について、具体的に整備、体系化したルールブックです。
労基法では、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない」(89条)とし、労働者を常時10人以上使用している事業場については、使用者に対してその作成義務を課しています。
就業規則には、どんなルールを盛り込んでもかまわないというわけではありません。労基法では、「次に掲げる事項」として、1必ず記載しなければならない事項(絶対的必要事項)、2定めた場合には必ず記載すべき事項(相対的必要記載事項)、3記載するかどうか自由な事項(任意的記載事項)の3つのカテゴリーに分化されます。
・絶対的必要記載事項
・相対的必要記載事項
・任意的記載事項
したがって、やみくもにルール化するのではなく、まず必ず記載すべき事項をチェックした上で、自社にとって必要となる規範を明文化することになります。
就業規則と労働契約: 就業規則は労働契約の条件を下回ることはできず、労働契約が就業規則に定められた条件よりも悪い場合、就業規則が優先されます。
就業規則と労働協約: 労働協約は就業規則に優先し、就業規則は労働協約に反する内容を含んではいけません。
就業規則と法令: 就業規則は法令に反してはいけません。法令は就業規則や労働契約、労働協約のどれよりも優先される基準です。
就業規則の作成手続きは基本的に以下の流れで実行されます。
1, 就業規則案の作成
2, 労働者への説明
3, 労働者代表からの意見徴収
4, 労働基準監督署長への届出
5, 労働者への周知
就業規則は、使用者が作成するものですが、一方的に苛酷な労働条件や服務規律などを労働者に課すものとならないように、労基法では、就業規則を作成したり変更する場合には、労働者の代表の意見を聞かなければならないこととされています。
この場合の意見を聴く「労働者の代表」とは、支店や営業所などの営業場単位において、1労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、2労働組合がない場合や労働組合があってもその組合員の数が労働者の過半数を占めていない場合には、労働者の過半数を占めていない場合には、労働者の過半数を代表する者のことを言います。
「労働者の過半数を代表する者」は次のいずれの要件も満たす必要があります。
1, 労働法41条第2号に規定する監督又は管理の地位にあるものでないこと
2, 就業規則について従業員を代表して意見書を提出する者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続きにより選出された者であること。
「意見を聞く」とは、文字通り労働者に意見を求める意味なので。同意を得るとか協議を行うという意味ではありません。また、使用者としては、法的にはその意見に拘束されるものではありません。したがあって、意見の内容が「この就業規則は認められない」というものであっても就業規則の作成手続き上、障害となるものではありません。
作成された就業規則は、労働者の代表の意見を記し、その者の署名または記名押印のある書面(意見書)を添付して、事業場ごとに所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。
届け出た就業規則は、各労働者に配布したり、各職場に掲示したり、磁気媒体に記録するなどして、労働者に周知させなければなりません。
では、就業規則がない場合、企業にとってどのようなリスクがあるのでしょうか。
1 労務管理の困難化
就業規則がない場合、懲戒処分の執行や労使間のトラブルが発生した際の解決手段が不明確になります。これにより、問題社員の対応が困難になり、企業の労務管理負担が増加します。
2 法的保護の欠如
服務規律や副業に関するルール、定年制などの基本的な労働条件を明確に定めることができず、これが結果として従業員の権利を保護するための法的枠組みの不在につながります。
3 経済的支援の不利益
助成金などの経済的支援を受ける際、就業規則の存在が要件となる場合が多いため、就業規則がない企業はこれらの支援を利用できなくなる可能性があります。
4 健康管理と高齢者雇用の課題
病気休職者への適切な対応策が定められず、また高齢で仕事が困難な社員の雇用継続に関しても適切な規定がないため、企業はこれらの社員をサポートするための具体的な手段を欠きます。
5 セキュリティリスクと労働時間の問題
副業による長時間労働や機密情報漏洩のリスクが高まり、これらを管理・防止するための具体的なガイドラインが不足します。また、年次有給休暇の計画的付与や振替休日の効果的な管理が困難になります。
労働者の意見の未聴取でも必ずしも効力を失うわけではありません。
●労働者代表の意見徴収をしていない就業規則
労基法では、就業規則を作成又は変更する際に労働者への意見徴収を義務づけてはいますが、合意までは要件とはしていません。そのため、意見徴収をしないことは、手続き上は法律違反となりますが、従業員に周知されて事実上、適用されているような場合には、効力を有することになります。
●労働基準監督署へ届けていない就業規則
労基法では、作成した就業規則は、所轄労働基準監督署長へ届け出ることを義務づけています。したがって、労基署に届けていないということは、手続き上は法に抵触しますが、民事上では従業員に対する効力を有するものと解されています。
●従業員への周知を欠く就業規則
労基法では、就業規則を常時、各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けたり、あるいは書面を交付するなどして、労働者に周知することが義務づけられています。
この周知義務を欠く就業規則について判例では、「…使用者において内部的に作成し、従業員に対しまったく周知されていない就業規則は、労働契約関係を規律する前提条件をまったく欠くというべきであるから、その内容がその後の労使関係において反復継続して実施されるなどの特段の事情がない限り、効力を有しない」(関西定温運輸事件/平10.9.7大阪地裁)と否定的です。
不況の時に、会社は従業員を解雇する代わりに、給料を減らしたり、退職金を少なくしたりして、問題を解決しようとすることが多いです。しかし、すべての従業員がこれに同意するわけではありません。中には、給料を減らされるのに反対し、以前の規則どおりにしてほしいという人もいます。
裁判所は、会社が勝手に労働条件を悪くすることは基本的に認めないとしています。ただし、会社が行う変更が「合理的」ならば、従業員がそれに同意しなくても、新しい規則を適用できると見なされます。この「合理的」というのは、変更が公平であるかどうか、つまり従業員にとって不利益がどれだけ大きいか、会社が変更をする必要がどれだけあるかなど、色々な点を考えて判断されます。
つまり、会社が不況を理由に労働条件を変える場合、その変更が従業員にとって公平なものであれば、従業員はそれを受け入れなければならないということです。この公平かどうかの判断は、変更の理由やその影響、会社と従業員との話し合いの内容など、多くのことを考慮して決められます。
・合理性のポイント
就業規則は、労働条件や職場ルールを定める企業の必須文書です。10人以上の労働者を雇う企業は作成・届出が必要で、ないと多くのリスクが生じます。適切な作成と労働者への周知が重要です。
就業規則の作成などについてお考えの方はぜひ桜花法律事務所へ気軽にご相談して下さい。
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