弁護士コラム
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自己破産と否認権

投稿日 :
2023-08-05 13:47:43
カテゴリ :
債務整理
WRITER :
桜花法律事務所 上野健太

1.否認権

破産手続前であったとしても、破産見込みであるような経済状況の破産者が、自己の財産を減少させるような行為をすれば、債権者全体の利益を害することとなります。

そのため、破産手続きにおいては、破産者の財産を減少させ債権者全体の利益を害するような行為を失効させる否認権という権利が存在します。

2.否認権の類型

否認権の類型としては、「詐害行為否認」(破産法160条)と「偏頗行為否認」(同162条)があります。

(1)詐害行為否認

ア 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為(破産法160条1項1号)

破産者の行為の時期を問わず、破産者が債権者を害することを知ってした行為は広く詐害行為否認の対象とされています。例えば不当に安く破産者の財産を処分する行為がこれにあたります。

もっとも、破産になる可能性が無い時期の行為であれば問題とはならないでしょう。

また、破産者の行為によって利益を受けた者が、その行為によって破産債権者が害されることを知らなかった場合には、否認権行使の対象となりません。

イ 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為(同項2号)

2号では、支払の停止又は破産手続申立後にした債権者を害する行為を禁止しています。

そのため、支払の停止や破産手続き開始申立ての後であっても、財産を安価で処分すれば、否認権行使の対象となり得ます。

ウ その他の類型

その他、債務の弁済に代えて過大な価値を有する財産を債権者に給付する行為(破産法160条2項、)、財産の贈与・債務免除・債権放棄などの無償行為(同条3項)、財産の隠匿等のために財産を適正価格で処分し換価する行為(同法161条)などが、否認権行使の対象とされています。

(2)偏頗行為否認(破産法162条)

破産法162条では、特定の債権者に対する担保の提供や債務の弁済を否認対象行為として規定しています。

そのため、破産者が、支払不能になった後に特定の債権者に担保の提供をしたり債務の弁済をすれば否認対象行為となります。

また、支払不能の直前に、弁済期未到来の債務を弁済する行為についても同様に否認対象行為となります。

もっとも、否認対象行為の相手方である債権者が、その行為の当時に、債務者が支払不能であることや破産手続開始の申立てをしていることなどを知っていた場合に限り、否認権は行使されることとなります。

ア 同時交換的行為の除外

  否認の対象となる行為は、弁済が「既存の債務についてされた」場合に限られます。

  そのため、新規の債務について担保を供与する行為や現金売買のように債務発生と同時にされる弁済行為は偏波行為否認の対象とはなりません。

⒊ 否認の一般的要件

 否認対象行為は対象行為ごとに個別に規定されていますが、対象行為を問わず、一般的要件が問題となる場合があります。

 ア 有害性 

  否認が認められるには、当該行為が破産債権者にとって有害であることを要するものと考えられています。

 イ 不当性

  当該行為が、その動機や目的に照らして、破産債権者の利益より優先する社会的利益が認められる場合は、不当性がないものとして、否認の対象とならないと考えられています。不当性が欠ける行為としては、破産者の生活費や事業の運転資金を確保するために財産を売却したり、担保を設定したりする行為があります。

⒋ 終わりに

以上の通り、否認対象行為にあたるか否かの判断は容易ではなく、支払不能時期の検討の上、慎重に判断される必要があります。

 

 

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