弁護士コラム
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身元保証契約について

投稿日 :
2023-05-17 12:29:36
カテゴリ :
企業法務
WRITER :
桜花法律事務所 中島俊明

 目次

1.身元保証契約とは

2.身元保証契約の目的

3.身元保証契約の規制内容

4.民法改正による極度額の定め

5.まとめ

 

1.身元保証契約とは

身元保証契約とは、従業員が会社に対し損害を発生させた場合に、保証人がその従業員と連帯して損害を賠償することを約束する契約です。従業員が会社に損害を賠償させた場合に、従業員がその賠償をすることが義務があります。しかしながら、その従業員にその賠償をするための十分なお金があるとは限りません。この場合に、身元保証契約によって損害の賠償を図ることができることになります。また、身元保証人に迷惑をかけられないという意味で、従業員による不正の防止を図るという意味もあります。

 

2.身元保証契約の目的

身元保証契約には身元保証に関する法律(身元保証法)によって規制されています。身元保証契約は、いつ、どこで、どのくらいの金額で起きるかわからない不特定な事項について連帯して賠償する義務を約束する契約であることから、身元保証人を保護するために身元保証法による保護が定められています。

 

3.身元保証契約の規制内容

身元保証法では次のとおり身元保証人に有利な定めが定められています。

① 期間の定めのない身元保証契約の有効期間は契約成立日から3年間とされます。

② 期間の定めをする場合でもその最長期間は5年間までです。5年を超える定めがあっても5年に圧縮されます。

③ 会社は、身元保証人に業務上の問題があり保証人への責任が発生する恐れがある場合や保証人の職務内容や就業場所が変更されるなどして保証人の責任が増え保証人の監督を困難にするときには、身元保証人に通知を送る義務があります。

④ 身元保証人は③の通知をうけとったとき、または③の事情を把握した時には将来にわたって身元保証契約を解除することができます。

⑤ 裁判所は、身元保証人の責任を判断するにあたって、使用者の監督にあり方や身元保証契約締結の経緯などの一切の事情を斟酌して判断します。

 

身元保証人は会社からの通知であるいは自ら近くした事情をもって身元保証契約を解消できます。また、会社が、問題が生じていたにもかかわらず身元保証人に対して通知を怠ったりしていた場合には、身元保証人は、企業側が適切な通知を怠っていたりなどした場合には積極的に自らの責任額を争うことができます。

 

4.民法改正による極度額の定め

2020年の民法改正について身元保証契約には極度額の定めをすることが必須になりました(民法465条の2)。民法で465条の2に「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)」に身元保証契約も含まれることになります。

この重要な点は、2020年4月以降に締結された極度額の定めのない身元保証契約は無効ということです。

極度額とは制限の上限額のことです。極度額の上限金額を定めることで保証人の予測可能性を確保すること、契約時に慎重な判断の確保が出来るようにしています。

 

5.まとめ

身元保証契約は、法律の規定に詩だがって運用しなければ十分な効力を発揮しません。特に極度額の定めがないものは無効にすらなります。また、法律どおりに通知などの運用したとしても、身元保証人から解約されたり、裁判所によって種々の事情を考慮して身元保証契約の効果が制限されることになりますので過大な効果を期待することはできないと思われます。また、極度額が過度に大きければ、身元保証人候補者も警戒するため、身元保証人になってもらう人を見つけることも困難になり、それでは採用に支障をきたすことになります。また、過度な身元保証契約は公序良俗違反で無効となる可能性もあります。身元保証契約は、あくまでも従業員に適切に働いてもらうための安全装置としての位置づけと理解しておくことが無難だと思います。

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