ギャンブル依存症を抱え、多重債務に陥った相談者様について自己破産の申立を行い無事に免責決定を勝ち取りました。
2022-02-03
40代の男性相談者様はギャンブル依存症を抱えて、約2100万円もギャンブルや投資(投機的取引)につぎ込んで多重債務に陥り、ネットで見た司法書士に任意整理を依頼したが・・
相談事例
相談者様は、本件依頼時40代の男性です。10代の頃からギャンブルや投資(投機的取引)にはまり、多額のお金をつぎ込んできました。20代後半頃から、投資に負けたため、貸金業者から借金をするようになりました。
その後、結婚し、2人のお子様に恵まれましたが、ギャンブルや投資をやめることはできませんでした。30代になり、たまたま投資で勝つことができたので一時的に借金を完済した時期はありましたが、その後すぐに投資やギャンブルのための借金をするようになりました。ギャンブルの資金のため、借金をするだけではなく、クレジットカードで商品を購入して売却する、いわゆるクレジットカードの現金化も行うようになってしまいました。このようにして、貸金業者やクレジットカード会社に多額の借金をするようになりました。それでも、ギャンブルや投資をやめることはできませんでした。
30代後半になり、債務の返済に困った相談者様はネットで見た司法書士(以下、「本件司法書士」と言います。)に任意整理を依頼しました。本件司法書士は、任意整理を進め、貸金業者やクレジットカード会社との間で和解が成立しました。そして、毎月和解金及び弁済代行費用として合計16万5000円を本件司法書士に納付し、本件司法書士から各債権者に対して支払いをするということになりました。しかし、相談者様は、任意整理の過程で一度も司法書士と会ったこともなく、電話で少し話しただけで、何故16万5000円を毎月本件司法書士に納付するようになったのかもわからないままでした。言われるままに、毎月お金を本件司法書士に納付し、本件司法書士から各債権者へ支払いをしてもらいました。しかし、この毎月16万5000円を用意することは、相談者様一家の収入では困難でした。この間、家族にギャンブルや投資によって多重債務に陥ったことが発覚し、半年ほどだけはギャンブルや投資をやめることができました。しかし、その後は、ギャンブルや投資を再開してしまいました。
任意整理後によって和解金の支払いを開始した直後、相談者様は人間関係の問題からそれまで勤めていた会社を退職しました。このとき支給された退職金を相談者様は投資につぎ込み失ってしまいました。本件司法書士への支払については相談者様のお母様から援助を受けて継続していました。
任意整理をした翌年、相談者様は自分がギャンブル依存症であることを自覚して、依存症の専門医院に通院するようになりました。ただ、やはりそこまで真剣になることができず、ギャンブル依存症の自助グループGAにも通ったものの、1,2回で通うことをやめてしまいました。ギャンブルに行く回数は減ったものの、やめるまでには至りませんでした。
その後、相談者様のお母様から援助を打ち切られ、本件司法書士を通じて支払いをしていくことが困難になったので、当事務所の弁護士に相談し、弁護士に自己破産を委任しました。
結局、相談者様は、10代でギャンブルを始めてから、株取引やFX取引や仮想通貨取引によって約1700万円、パチンコで約200万円、競馬や競輪で約200万円の約2100万円もつぎ込みました。任意整理時点で残債務約債権者6社850万円、破産申立時には約560万円もの債務がありました。
解決結果
1.弁護士は、受任にあたって、この問題を解決するには原因となっているギャンブル依存症であること、ギャンブル依存症から回復しなければ、裁判所から免責(借金をなくすこと)を勝ち取ることができても、結局また多重債務に陥ることを述べたうえで、ギャンブル依存症を回復していくことが重要であることを説明しました。また、ギャンブル依存症から回復していく姿をきちんと裁判所に見せていくことが、裁量免責を勝ち取る重要な要素になると説明しました。<br>そして、具体的な行動として、弁護士は相談者様に、家計簿を毎月つけてもらうとともに、専門医院への通院をするだけでなく、自助グループGAへの継続的な参加をしてもらい、その参加記録を書面にして証拠化してもらいました。また、毎月、相談者様と面談を行い、家計簿のチェック、GAや専門医院への通院状況の確認及びギャンブル依存症に関してヒアリングしました。
相談者様は、毎月の専門医院への通院、毎週1回自助グループの参加及び毎月の家計簿の作成を継続しました。それは、破産申立後も継続し、免責を得た今でも継続しています。その結果、相談者様は当事務所に来てから一度もギャンブルや投資をせず、回復の道を歩んでいます。ギャンブルが頭から離れたことで、仕事面にも身が入り結果を残すことができました。
2.一方、弁護士は本件司法書士との委任契約について検討したところ、債権者6社のうち、本件司法書士が任意整理事件として取り扱うことができない債務額140万円を超えている債権者3社に対しても任意整理を行い、その分の司法書士費用を受領していたことが判明しました(最高裁判所平成28年6月27日判決)。また、相談者様は毎月本件司法書士に納付していた16万5000円のうちの一部については、本件司法書士が後で各債権者に対して一括弁済をするために多めに受領し、預り金としていました。
そこで、弁護士はまず、本件司法書士に対して、預り金の返還を求めたところ、本件司法書士から預り金143万4584円を回収しました。そのうえで、本件司法書士に対して上記最高裁判所判決にしたがって、司法書士報酬のうち29万9600円を返還するように求めたところ、本件司法書士との間で全額を返還の和解が成立し、29万9600円を回収することができました。これらの回収によって、速やかに弁護士費用や破産管財費用を早期に用意することができました。
3.そのうえで、弁護士は、破産申立を行いました。本件司法書士からの回収によって財産が多くなったこともありますが、ギャンブル依存症をごまかさずに正面から免責を勝ち取るべく、管財手続による申立を行いました。
相談者様にはギャンブルや投資(投機的取引)、廉価処分等の多数の免責不許可事由がありました。そこで、弁護士は、申立書類の中で、ギャンブル依存症が脳の病気であること、回復のためには継続的な治療と支援が必要であること、相談者様がギャンブル依存症であり、数々の免責不許可事由についてはギャンブル依存症が原因であることを主張しました。そのうえで、ギャンブル依存症が社会的に認知度がまだまだ低く、必要な治療や支援が受けられず、そのため相談者様においてもっと早期にギャンブル依存症の治療に着手し、債務の拡大を阻止することが困難であったことを主張しました。また、相談者様が専門医院や自助グループGAに継続して通い、家計簿をつけるなどして、ギャンブル依存症の回復と家計収支の改善に取り組んでいることなどを主張しました。そのうえで、これらの事情に鑑みれば裁量免責が相当であるとの意見を述べました。
4.破産開始決定後、管財人が就任しましたが、管財人にもギャンブル依存症について説明を行うとともに、管財人に対して、専門医院への通院歴と治療経過が記載してあり診断書、自助グループGAに通った記録、家計収支表を提出し、破産申立後も油断することなく回復に真摯に取り組んでいることや家計収支が改善していることを主張立証しました。
5.本件司法書士からの回収金額が多く、自由財産を拡張してもなお、多くの財団ができ、配当のため債権者集会を2回開催することになりましたが、1度目の債権者集会の時点で破産管財人から裁量免責相当の意見書が出されました。ただ、それに油断することなく、相談者様は、毎月の専門医院への通院、毎週1回自助グループの参加及び毎月の家計簿の作成を継続し、それを破産管財人に報告した結果、第2回目の集会後まもなく、裁判所から更生の可能性などを理由として、裁量免責による免責決定を得ることができました。
弁護士のコメント
私はギャンブル依存症問題に取り組むきっかけとして、長年この問題に取り組まれている専門家の方から、弁護士や司法書士がギャンブル依存症の方に対して治療や回復に配慮せず、形式的に債務整理の事件処理を行い、その結果、ギャンブル依存症の問題をより悪化させているという旨の指摘を受けたということがあります。この指摘は、私にとってとても身につまされるものがありました。その指摘に対する、私なりの答えがこの事件への対応だったと思います。
ギャンブル依存症からの回復と債務整理の両立。これがこの事件の目的でした。ギャンブル依存症を放置して、形式的に免責を得たとしても、それがかえって資金的にギャンブルを再開できる余裕を作ってしまう結果となり、再度の多重債務などより問題が深刻化してしまう危険があります。だからこそ、ギャンブル依存症からの回復と免責の獲得の両立を目指す必要がありました。
今回の事件対応を通じて、相談者様との一緒に免責まで伴走することができ、ギャンブル依存症からの回復と免責の獲得の両立という目的を実現することができたと感じており、非常にうれしく思います。
また、相談者様と毎月面談をしていく中で、相談者様からギャンブルをやめられなかったときの辛い気持ち、GAに通っている感想などをリアルに聞くことができ、多くの学びを得ることができました。何より、相談者様が回復の道のりを歩まれていること自体が、このギャンブル依存症の問題に携わっていくと決めた私にとっての大きな希望となりました。
相談者様は今でも月1回の専門医院の通院と週に1回のGAへの参加を継続しており、今後も継続している決意しています。ギャンブル依存症には完治はありません。ギャンブルをやめ続けていき、人生を豊かにしていくこと、それが回復です。相談者様には回復を続け、また、その姿をこれからGA等に参加される人に見せていってもらい、自身だけでなく、多くの人の救済につなげていってほしいと思っています。
ギャンブル依存症は強い偏見と差別に晒されています。だからこそ、潜在的に多数の罹患者がいるにもかかわらず、通院や回復の支援を受けている人がごく少数にとどまっています。この相談者様の結果が、ギャンブル依存症問題の新たな光となることを願っています。