会社の上司からのパワーハラスメントを受け、未払残業代などをあわせて解決金合計150万円を獲得することができました。
2021-11-17
50代の男性相談者様は約10年間営業職として職務に従事していましたが、所定労働時間及び法定労働時間を超える労働をしているにもかかわらず残業代は支払われず、また上司からの正当な業務を装った悪意のあるパワーハラスメントを受け、当事務所へ相談に来られました。
相談事例
相談者様は、本件依頼時50代の男性です。相談者様は、期間の定めない従業員として約10年間、相手方に雇用され,営業職として相手方の職務に従事していました。
この間、相談者様は,所定労働時間及び法定労働時間を超える労働をしているにもかかわらず,相手方は,それに対応する残業代を支払いませんでした。
ある日、相談者様は、相手方代表Aから相談者様にあるプロジェクトに、相談者様の部下Bをプロジェクトメンバーとして参加させるように指示がありました。しかし、Bをプロジェクトにいつから参加させるのかについては具体的な指定がなかったことから、相談者様は、相談者様がミーティングの内容を確認して参加する準備を整えてから打ち合わせに参加させようと判断しました。そして、相談者様は、2回ほど自分がミーティングに参加して調整を図り、その次のミーティングからBを参加させることになりました。ところが、そのことを知ったAは、相談者様に対して、すぐにBをミーティングに参加させなかったことを、越権行為や命令違反などと告げて、2時間もの間、叱責を行ったうえ、長文の謝罪や反省を内容とする文書を作成させました。また、Aは、別の日に1時間30分かけて、「事実確認」と称して再度Bのミーティングの不参加について、前回と同じことを何度も繰り返し問い正してきました。相談者様が、前回書面で回答したとおりであると告げても、Aは、納得や理解をする様子を見せず延々と詰問を続けました。この日、Aは、相談者様に2回目の文書を作成させました。さらに、Aは、その2日後に相談者様を会議室に呼び出し、予め集まっていた他の役員等とともに、数人がかりでこれまでと同じことを約1時間にわたって繰り返し「事実確認」と称した詰問を行いました。相談者様が何度答えても、Aは納得することはなく、詰問は延々繰り返されました。相談者様は,何度も繰り返されるAの追及に精神的苦痛を覚え、心療内科に通院をするようになってしました。さらに、Aは、別の日に相談者様を再度呼び出して、「事実確認」と称する詰問をしたうえで文書の作成を指示して、文書を作成させました。相談者様は、このように根拠なく延々と継続される追及に強い精神的苦痛を受け、相手方を退職することを決意し退職届を相手方に提出しました。
その後、Aは相談者様に、常務Cとともに、相談者様が過去に勤務時間内に直帰で帰宅した日があることを理由に叱責しました。この際に、Aは証拠写真があるなどと述べて強気な発言をしていました。相談者様は、その日、正確に午後6時前に帰宅したかどうかの正確な記憶はありませんでしたが、Aが証拠がある旨を告げたことから、おそらく終業時間の15分前頃に帰宅したのだろうと考えるに至りました。ただ、この場合に仮に直帰せずに相手方の事業所に戻っても終業時間を超えてしまうというものであり、直帰の判断自体は必ずしも不合理であったとはいえないものでした。このように相談者様に問題のある点は少なかったにもかかわらず、Aは相談者様を叱責したうえ、事実確認書や始末書を記載させました。このとき、相談者様はこの日以外に勤務時間内に直帰した記憶がなかったことから、この日以外に勤務時間内に直帰したことはない旨を文書に記載しました。その後1か月あまり後になって、Aは、相談者様に対して、前回指摘された日2日前にも終業時間の10分前に直帰していたことを叱責しました。このときも、Aは証拠がある旨を主張していました。そこで,相談者様には、正確な記憶がありませんでしたが、Aが再度証拠がある旨を述べたことから、勤務時間内に直帰をしたと思うようになりました。また、Aは、今回勤務時間内の直帰だけでなく、前回の直帰の件の際に勤務時間内に直帰したことがないと文書に記載したことをもって、虚偽の申告として、相談者様を責め立てたうえ、さらに文書を書かせました。Aは、本来ならば前回の時点で2回の直帰の事実を認識していたにもかかわらず、それを指摘せずに、文書を作成させてから過去の直帰を持ち出して常習性があるどなどと責め立てたのです。そのうえで、Aは、相談者様に対して「常習性がある」などと告げて懲戒処分にすると述べるとともに、懲戒処分をした場合には身元保証人にもその旨連絡するなどと告げて脅しをかけてきました。また、「今後も色々と出てくるかもしれませんから。」などと告げ、さらに相談者様のあら捜しをして相談者様を追いつめることを仄めかしました。
Aを主としたによる執拗なこのような攻撃によって相談者様の精神は大きく傷つけられました。そして、相談者様は出社することができなくなり、そのまま退職まで有休消化をとることになりました。そして、相談者様は、自分の意向を押し通すまで延々と攻撃を継続する相手方とのやり取りを継続することに限界を感じ、当事務所の弁護士に相談し、弁護士に本件事件を本件事件を委任しました。
解決結果
1.弁護士と相談者様との打ち合わせでは、未払賃金請求や慰謝料請求を行うことは決まっていました。しかし、これを行った場合に対抗的に懲戒処分を行ってくることが考えられました。懲戒処分を受けると退職金の減額などの不利益を被ります。ただ、退職してしまえば懲戒解雇はできません。また、懲戒解雇は弁明の手続をとらなければならないなど時間がかかります。そこで、弁護士は、最初の受任通知の段階では退職の意思を改めて表明し、まずは懲戒処分を受けることなく退職するべく時間稼ぎと懲戒処分を行うことがないよう警告の主張を行うに留めました。その結果として、相手方は懲戒処分は行わず、退職金の減額などはなされませんでした。
2.退職成立後、相手方に対して未払賃金とパワーハラスメントによる慰謝料を請求しましたが、相手方はこれに応じず、話し合いでの解決はできませんでしたので、労働審判の申立を行いました。
3.未払賃金請求の関係では、相談者様が部長であったことから管理監督者性が問題になりました。しかし、①相談者様の部下が2名しかいなかったこと、②管理監督者性であれば労働時間について裁量があるはずのところ、10分又は15分早く帰宅したことをもって叱責を受け、始末書などを欠かされていることから、管理監督者性は認められないとの方向に落ち着きました。また、相手方は、固定残業代の主張もしましたが、これについても従前の契約書から固定残業代のある契約書に契約を切り替えた際に固定残業代によって実質的に賃金が下がるということを説明していないという主張をしたところ、裁判所を説得することができました。
4.パワーハラスメントの主張については,録音記録をもとに主張した結果、Aの発言や事実確認と称する延々とした追求と直帰についてだまし討ちに等しいやり方について、裁判官から「悪意を感じる」との発言を得ることができました。
5.このように多くの場面で有利に主張を展開することができましたが、相談者様も紛争の長期化を望んでいなかったことから、調停による早期和解を目指した結果、解決金として150万円を獲得することができました。
弁護士のコメント
当初のご相談者様の主訴は、パワーハラスメントによる慰謝料を何とか請求したいというものでしたが、慰謝料請求だけをしても金額として大きな金額を見込めない可能性があったことから、比較的に客観的な証拠で判断がなされる未払賃金請求を加えて請求した結果、このような結果にすることができました。おそらく慰謝料請求だけではここまでの金額にはならなかったと思います。今回の金額は未払残業代満額に慰謝料が上乗せされた金額になっています。
また、退職から未来賃金や慰謝料の請求まで戦略的を組んで行うことで、懲戒処分などの相談者様の不利益を回避することができました。
今回、Aのパワーハラスメントは一見すると正当な業務を装っていたので、立証することに苦労はしましたが、粘り強くかつ端的に主張することで、裁判官から「悪意を感じる」との発言を引き出すことができたことはとてもよかったと思います。相談者様もこの言葉を聞くことで自分が間違っていなかったこと、Aのやり方に問題があったと感じることができました。やはり、今回のAのように、自らが上位の立場であることを利用して、正当な業務を装って、人を痛めつけるやり方は悪辣であるし、最後にはその化けの皮がはがれていくのだと強く感じました。