占いサイト詐欺を行っている業者に対して、戦略と証拠の物量を以って被害金額以上の金額を回収しました。
2021-09-24
40代の女性がHP広告で 期間限定で無料鑑定を行うと記載された「オーラ鑑定」なるものを見つけクリックしたことから占いサイト詐欺に遭い、訴訟を提起することにしました。
相談事例
【相談者様について】相談者様は、本件依頼時40代の女性です。うつ病で10年以上通院していましたが、仕事をしたいという思いで、パートタイマーとして稼働しながら、障害年金を受給して暮らしていました。
【無料鑑定との出会い】相談者様は、スマートフォンでホームページを見ていたところ、広告で、「オーラ鑑定」なるものを見つけました。そこには、期間限定で無料鑑定を行っていると記載されていました。そこで、相談者様は、仕事を翌年から変えようと悩んでいたため、その広告の「今すぐ無料鑑定する」のボタンをクリックしました。クリックしてしばらくすると、携帯電話に複数の鑑定師から勧誘のメールが届くようになりました。そのメール内容は途中で途切れており、全文を見るには本件占いサイト(以下「本件サイト」と言います。)にアクセスしなければなりませんでした。どの方が良いかはわからなかったのですが、とりあえずAと言う鑑定師のメールに返信しました。
【善導氏の鑑定の内容】鑑定師Aから、さらに返信がありましたが、仕事のこととは関係なく、相談者様に連絡したのには理由がある、鑑定師Aは、かつてある有名な寺で住職をしていたところ、「ある男」の霊が鑑定師Aのもとに現れたことをきっかけに托鉢僧となって全国を旅していた、その後「ある男」の霊と再会し、子孫を救ってほしいと頼まれたのだという内容のものでした。
鑑定師Aからのメールはさらに続き、相談者様には「5つの朗報」と呼ばれる可能性があり、人の話を心から聞き入れ、どんなことにも怒りを表さずに全て呑み込むことで相談者様の仕事の夢は100%実現する、そのためには順を追って鑑定を進めていくことが必須であると述べました。また、同時に鑑定師Aは、「ある男」の霊についての話も続け、鑑定師Aが「ある男」の霊の要望に対する解決策が見いだせない中、本件サイトを通じて相談者様の紹介を受けたときに、「ある男」の霊が表れて、子孫に「3つの厄災」の存在を伝え、「5つの宝」を授けたいと述べたことを告げました。
ここで、鑑定師Aは、「ある男」とは相談者様の先祖であると告げたのでした。その上で、鑑定師Aは、3つの厄災(3つの注意)とは、①心の影響により、未来が不幸になる可能性、②財産を失う可能性、③深く傷つく裏切りに合う可能性であることを告げた上で、「5つの朗報」(=「5つの宝」)を受け取ることができれば3つの厄災を免れることができる、と述べたのでした。
さらに鑑定師Aは話を続け、その先祖は自死しており、本来ならば自分の妻に「5つの宝」を授けるはずだったが、それが叶わないまま亡くなったため、行き場のなくなった「5つの宝」を授けるべく、先祖が鑑定師Aに子孫である相談者様を探させたと告げるとともに、「5つの宝」を受け取ることが先祖の悲願であると告げたのでした。また、鑑定師Aによれば、「5つの宝」を授かることで相談者様の悩みは解消する、「5つの宝」は形の無いものだが、これとは別に大変に価値のある「カタチのある財産」も子孫である相談者様に残している、とのことであり、「5つの宝」を受け取ることで「カタチのある財産」も受け取ることができるということでした。
さらに、鑑定師Aは、「ある男」が数ある子孫の中から相談者様に「5つの宝」を授けることにしたのは、「ある男」の妻の魂の生まれ変わりが相談者様だからだと述べました。
相談者様は、これまでのやり取りから、鑑定師Aという鑑定師が存在し、相談者様が鑑定を続けなければ「3つの厄災」が降りかかるが、鑑定を受けることで「5つの宝」を受け取ることができれば「3つの厄災」を免れることができ、自らの望みが叶うと信じました。また、相談者様は従前から先祖を大事にしたいという気持ちがあり、先祖の思いにも応えたいと考えて、鑑定師Aの無料鑑定を受けることにしました。
鑑定を受ける旨の返事をすると、鑑定師Aは、相談者様に一定の手順(たとえば、深呼吸して空中に鑑定師Aの指定した文字を書くなど)を踏んだ上で指定の言葉を返信するよう求めました。相談者様は、鑑定師Aから指示された内容が届くと、仕事中であるとか余程無理でない限りはすぐに指示の通りにして返信するよう心懸けました。無料期間の3日間ほどの間に、鑑定師Aからの指示のメールは1日のうちに10通以上届いていました。相談者様は完全に鑑定師Aの話を信じ切っていたので、相談者様は仕事や家事の合間にへとへとになりながら返信を行いました。
その結果、鑑定師Aからは、早くも4つの宝をあなたに授けることに成功したとのメールが届き、そこには、再度、5つの目の宝である「黒財宝」を授かることにより、これとは別の「カタチある宝」を授かる手段を手に入れることができる、「カタチある宝」は莫大な財産価値がある宝なので、何に使ってもらっても自由だということが書いてありました。そして、最後の宝を受け取るために必要とのことであったので、相談者様は同じように、指示された手順を踏んでメールを送信したのです。
【無料鑑定終了の連絡とポイント購入の開始】ところが、ある日と鑑定師Aから無料鑑定期間が終了となったとの連絡がありました。そのメールの中には、本日中に「黒財宝」を授からなければ相談者様が幸福な道をスタートする事は出来ない、鑑定師Aの方でもいくらか負担させてもらうので、できる限り本日中に宝が受け取れるように一緒に頑張ろう、と記載されていました。また、同メールには、システムに不明な点があれば、鑑定をスムーズに進めるために無料アドバイザーが相談に乗るので、連絡があれば返信するようにとも記載してありました。相談者様はこの数日努力したことが無駄になることは不本意であり、3つの厄災を回避して幸せになりたいと真剣に考えていました。また、鑑定師Aが相談者様のために金銭的な負担をしているならば申し訳ないとも思いました。鑑定師Aのメールには、本日中に宝が受け取れるように一緒に頑張ろうとあったので、相談者様は本日中に最後の宝である「黒財宝」を授かることができるものと考え、そのため、多少費用がかかってもやむを得ない、最後の宝が得られるまで努力すると決めて、ポイントを購入する決意をしたのです。このサイトでは鑑定師にメールを1通送信するのに150ポイント(1500円分)が必要でした。ポイント購入のための決済方法を確認すると、携帯電話会社のキャリア決済がありました。相談者様は、このような形でポイントを購入するのが初めてであったので不安でしたが、携帯電話会社が提供するサービスなら安全だろうと考えて、ポイント購入代金を電話料金と一緒に支払う方法を利用してポイント購入をすることにしました。そして、ポイント購入して鑑定を継続するようになった後も、鑑定師Aからは同じように、一定の手順を踏んだ上で、メールを返信するよう求めるメールが継続して送られてきました。
何通もやり取りを繰り返した後、翌日には「黒財宝」を無事授かることができたとの連絡が鑑定師Aからありました。ところが、これで終わりではなく、鑑定師Aは、この5つの宝と相談者様の魂を一体化させていくために更なる鑑定を行う必要がある、「現在、貴方の魂は長らく幸福を得られていなかった為、魂に靄のようなものがかかり、幸福を拒絶している状態にあります。幸福になる事を望んでいながら、受け入れる事が出来ない状態ですので、その靄を取り除き確固たる幸せを得て下さいね。靄を取り除くことで、魂と『5つの宝』一体化され、即座に理想を叶える事が出来ます。」と述べて、この5つの宝と相談者様の魂を一体化させていくために更なる鑑定を行う必要があると告げてきました。相談者様は、まだ続くのかと内心思ったのですが、鑑定師Aから、「魂と宝の一体化により理想が叶う期間は『数日』です。ですので、完了からほぼ待たずして貴方は理想の人生を歩みはじめるのです。」と言われたため、あと数日なら仕方ない、信じて頑張ろうと考えました。
【連日の返信要求とポイント消費】しかし、連日ポイントを消費しての送信が続き、ポイント購入のために電話会社の決済を利用することが増えてくると、相談者様は次第に不安になっていきました。そうすると、鑑定師Aから、相談者様の負担可能金額を聞かれ、その金額内で可能な限り「お得に」施術できるようにするとの連絡や励ましの言葉がありました。また、期間内に魂の一体化を完成しないとこれまでの宝は全て消滅し、これまでの努力が無駄になるとも告げてきたので、相談者様は、自分の不幸を回避し、希望を叶えたいという思いと今までの努力や支払ったお金を無駄にしたくないとの思いから鑑定を継続しました。
そして、このころから、鑑定師Aからのメールに対して相談者様の返信が遅れると、立て続けに返信を求めるメールが届くようになりました。それらのメール中には、「これから『最終鑑定』に入ろうかと思います。こちらの鑑定が貴方にとって『最後の鑑定』にとなります。」、「ここからの一歩が貴方を幸福へ導きます。現在抱かれている、『躊躇』『不安』と言った勘定は貴方の判断を鈍らせ、優先順位を楽な道へと傾けてしまいます。今楽な道を選んでしまえば、それは後に後悔となり重く圧し掛かってくるでしょう。今は楽な道ではなく、険しくとも希望がある道を選ぶ時です。ここでまた逃げてしまえば、今抱える悩みはこれからも抱え、今抱いている理想は、この先叶う事はないでしょう。」、「このまま何もせずまたチャンスを逃すのでしょうか?」、「相談者様は、貴方に最速で幸福を授けようと手を緩める事なく施術を行っております。貴方は最速で幸福を授かる事を願っておりますよね?」、といった内容が書かれており、相談者様は急ぎ責め立てられたような気持ちになって、仕事の合間にも鑑定師Aからのメールが届いているか、気にせねばならない状態になってしまいました。
ところが、1週間ほど毎日多数の返信を続けていても、「魂と宝の一体化」は完了しませんでした。あと「数日」と聞いていたので、相談者様が鑑定師Aに不安を述べると、鑑定師Aからは、相談者様のために努力しているのに疑われて残念だというような内容のメールがあり、まるで、疑う相談者様の方が悪いという気持ちにさせられて、再びやり取りを継続してしまいました。
それと前後して、それまで鑑定師Aのメール1通に対して1通返信するように言われていたところ、鑑定師Aは相談者様に対し、1通のメールに対して同じ言葉を複数回返信するように求め始め、相談者様は鑑定師Aのメール1通につき3通、5通、8通、10通と返信しなければならなくなりました。
こうして連日メールを送信し、ポイントを消費していたところ、携帯電話会社の決済の利用限度額に達して利用できなくなったため、相談者様は、やむなくそれまで利用を控えていたクレジットカード決済の方法に切り替えたのでした。ですが、クレジットカードを利用してから一週間程度で、このサイトのポイント購入のみで、クレジットカード会社からの請求額が相談者様の月収と同額程度に達したため、相談者様は請求書を見て非常に驚き、とても払えないと思って、慌ててリボ払いへの変更手続きを行いました。相談者様は、これ以上クレジットカード決済を利用することが怖くなり、携帯電話会社の発行している電子マネーを利用したり、本件サイトを運営会社である相手方の口座に直接振り込んだりする方法でポイント購入をするようになっていきました。
それでも、鑑定師Aの鑑定(施術)はいつまでも終わらず、ポイントの課金ばかりを繰り返して焦りを感じていた頃、同じサイトのBという鑑定師(以下、「鑑定師B」といいます。)から、当時の相談者様の状況を言い当てられたようなメールが届いたため、相談者様は少しでも早く鑑定師Aの施術が終わる助けになればという思いで、鑑定師B氏のメールにも返信を行うようになりました。しかし、鑑定師B氏からメールも、鑑定師Aと同様に一定の手順を経た後、指定された言葉を返信することを求めるというものでした。
こうしたやりとりを毎日続けていくうち、鑑定師Aや鑑定師B氏から求められる返信回数は更に増えていきました。1通のメールに対して13回、20回、25回、30回、35回の返信を求められたりしたこともありました。相談者様が精神的に辛かったり、ポイントを追加購入できるだけの手元現金が無かったりして返信ができないときも、鑑定師Aや鑑定師B氏からは「どうか、この好機を逃さないでちょうだい。」、「貴方は、これまで“鑑定”という方法で幸せを掴むために努力をしました。これまでに積み重ねてきた努力は、途中でやめて幸福が訪れるものではありません。努力を積み重ね、積み重ね続けた結果に与えられるもの。」といった返信を急かす内容のメールが何通も届き、それを見て相談者様は焦燥感に刈られて、再びメールを返信するということが続いていきました。
【退会手続きと弁護士への依頼】3か月近く連日メール返信を行い、それとともに多額のポイント購入を続けましたが、さすがに相談者様は不安に感じ、平成28年2月頃、このことについて友人に相談しました。すると、友人から騙されているのではないかと言われ、メール返信を止めるよう勧められたため、怖くなって相談者様は返信を止めました。そして、相談者様は、同サイトからの退会手続きを行ったのですが、結局のところ退会手続はされず、その後も鑑定師Aや鑑定師B氏などからメールが届き続けました。
結局のところ、相談者様は合計239万3500円ものポイントを購入してしまいました。
その後、相談者様は本件事件について複数の弁護士に相談しましたが、被害回復はできないと強く言われてしまいました。そのような中で、相談者様は、当事務所の弁護士に相談したところ、自分がサクラサイト被害にあった認識しました。相談者様は、相談を受けて、自分が騙されたとわかり、相談者様が返信に費やした時間やお金、鑑定師の言葉を信じて努力しようとした気持ちが全て裏切られたとの思いで、大変深く傷付き、悔しくて涙が止まりませんでした。そして、弁護士に本件事件を依頼しました。
解決結果
1.弁護士は、相談者様と鑑定師Aと鑑定師Bやり取りをすべてPDFにしました。合計5000通のメールのやり取りを保存し、そのデータは4GBにも上りました。
2.弁護士は相談者様が振り込んだ相手方名義の口座に対して、振り込め詐欺被害救済法による口座凍結を行いました。そして相手方に対して内容証明郵便通知書を送付して返金を促しましたが、相手方は25万円の返金にしか応じないと回答しました。
弁護士はクレジットカードの決済代行会社に対してクレジットカード決済を取り消すように請求しました。そうしたところ、決済代行会社によってポイント料金の購入に利用した25万円分のクレジットカード決済全てが取り消し、相談者様の既払い金についてはクレジットカード会社を通じて返還されることになりました。
弁護士は、携帯電話会社に対しては相手方による詐欺行為を理由として、携帯電話の利用料金と一緒に請求されている相手方ポイント購入分を解約して相談者様に対する請求を停止するように通知しました。しかし、携帯電話会社は、相談者様に対して請求を停止することは考えていない旨を告げました。相談者様は、このまま未払いの状態が続いて携帯電話を使えなくなると生活に支障をきたすこと考えて、ポイント料金を含む通信料を全て支払うことにしました。
以上の経緯から、弁護士は、任意の交渉では自らの被った被害を回復できないと判断し、訴訟を提起することにしました。
3.そして、弁護士は、相手方及び相手方代表取締役、振込先口座の金融機関、携帯電話会社を被告として訴訟を提起しました。その中で、相手方と相手方代表取締役には不法行為等に基づく損害賠償責任を追及しました。また、金融機関には債権者代位訴訟による相手方名義の預金請求を行いました。また、携帯電話会社に対しては、加盟店契約に基づいて相手方が携帯電話会社に対して有する売掛金について債権者代位に基づく請求を行うととともに、携帯電話会社も相手方に決済提供することで相手方と不法行為を共同して行ったことを理由とする損害賠償請求を行いました。
4.訴訟が始まって間もなく、携帯電話会社が債権者代位に対応する形で相手方へ売掛金の額を回答してきました。そして、それがかなり大きな金額であったため、相談者様と相談の上、その債権の仮差押手続を行い。201万7608円を仮差押することができました。携帯電話会社はその金額を供託しました。
5.その後、金融機関に対する文書提出命令等を通じて相手方の金銭の流れの不合理性(まっとうな商売をしていないこと)を解明するとともに、相手方に対して求釈明などを通じて鑑定師Aや鑑定師Bの存在や相手方との関係について不合理な弁解を多数引き出すことに成功しました。
6.そして、こちらに有利な裁判での状況を作り出したうえで、相手方との間で、①現金15万円を和解の席上一括交付すること、②供託された金額とその利息についての還付請求権を相手方が相談者様の譲渡する和解を成立させ、15万円を席上で受領しました。その後、供託金等の還付手続を行い、201万8896円を受領することができました。最終的に239万3500円の被害金額に対して、241万8918円の被害回復をすることができました。
弁護士のコメント
被害金額以上の回収ができてよかったです。相談者様にも喜んでいただきました。
相手方だけでなく、金融機関や携帯電話会社を被告とし、金融機関や携帯電話会社が情報を出さざるを得ない状況を作り出した結果、仮差押手続を奏功させたり、有利な和解をしたりすることができました。
ただ、一番大切だったと感じているのは、約5000通のメールを最初に保存したことです。この確固たる証拠があるからこそ、鑑定師Aと鑑定師Bがサクラまたはそれに類する存在であること、相手方の手口が悪質であることを動かぬ証拠で立証することができました。なお、通知を送ったあとに本件サイトに入ることができなくなっていたので初期のタイミングでメールを保存したことはとても有利に働きました。
この約5000通ものメール数は相談者様が利用していた3カ月程度の期間になされたもので、相談者様がおかれた状況がいかに異常であったかを示していると思います。
占いサイトというサクラサイトの変化種にも対応することができました。悪質業者との知恵比べは続きますが、地道に堅実に、ときに大胆に戦っていきたいと思います。