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時効①
- 投稿日 :
- 2026-01-22 16:23:09
- カテゴリ :
- 企業法務
- WRITER :
- 桜花法律事務所 中島俊明
時効①―「時効」とは何か―
目次
「昔の借金を突然請求された」
「ずっと使ってきた土地なのに、名義が違うと言われた」
こうした“時間がたった話”で登場するのが、民法の時効です。
時効は一言でいうと、
ある状態が一定期間続いた場合に、その状態を尊重して法律上の結論も確定させる制度
です。過去の問題をいつまでも掘り返さず、社会生活を安定させるための「区切り」とも言えます。
① 取得時効(権利を「得る」時効)
取得時効は、ある人が長いあいだ土地などを「自分のものとして」使い続けた場合に、条件を満たせば所有権などの権利を認める制度です。
ここで出てくる言葉を整理します。
- 占有:実際にその物を支配して使っている状態のことです(住む、管理する、使い続けるなど)。
- 所有権:その物を自分のものとして使用・処分(売るなど)できる基本的な権利です。
- 登記:土地や建物の名義などを公の記録に載せる制度です。
たとえば、祖父母の代からずっと「自分たちの土地」だと思って住んできた場所が、登記上は別人名義だったとしても、一定期間と要件を満たせば、住み続けてきた側が所有権を取得できることがあります。長年続いた現実を法律が追認するイメージです。
② 消滅時効(権利が「消える」時効)
消滅時効は、権利を持つ人が長いあいだその権利を行使しないと、一定期間の経過後にその権利が消える(と主張できる)制度です。
借金を例にすると分かりやすいです。
- 債権者:お金を返してもらう側(請求する権利がある側)です。
- 債務者:お金を返す側(支払う義務がある側)です。
債権者が何年も請求せず放置していると、期間が経過した後に債務者は「時効なので支払義務はなくなりました」と主張できることがあります。
時効は「サボった人を罰する制度」というより、社会を回すための現実的なルールです。理由は大きく3つです。
理由① 権利を放置した人を無期限に保護しないため
権利があるなら、通常は一定期間内に行使することが期待されます。いつまでも何もしないままの人まで、永遠に保護する必要はないという考え方です。
理由② 長年続いた現実を法的にも安定させるため
土地に長年住めば、家を建てたり、近所づきあいができたり、生活が積み重なります。そうした現実を、ある時点で法的にも保護しないと社会が不安定になります。取得時効は特にこの視点が強い制度です。
理由③ 時間がたつほど証拠が失われ、公平な判断が難しくなるため
古い出来事ほど書類がなくなり、記憶も薄れます。何十年も前の貸し借りを今になって争っても、証明が難しく、裁判で公正に判断しにくいです。時効は「一定期間を過ぎたら区切る」という役割も持ちます。
3. 重要:時効は「自動で」効くとは限りません(援用という仕組み)
時効の効果が出るには、単に時間が過ぎればよいわけではありません。特に大事なのが「援用」です。
- 援用:時効の利益を受ける人が「時効を使います」と主張することです。
民法145条は、ざっくり言うと「援用がない限り、裁判所は時効を前提に判断できない」と定めています。
つまり、消滅時効が完成していても、債務者が「時効を主張します」と言わなければ、裁判所は自動で時効を適用してくれない、ということです。
また、時効の効果は原則として「その主張をした人と相手の間」に限って働くと考えられます(専門的には相対効と言いますが、ここでは“広がりには限界がある”程度の理解で十分です)。
援用できる人は、条文上「当事者その他、権利の消滅について正当な利益を有する者」とされています。
- 正当な利益:時効が成立することで、自分の法的な立場が直接よくなることをいいます。
典型は債務者本人ですが、次のような人も援用できると考えられます。
- 保証人:本人が払えないときに代わりに払う責任を負う人です。
- 物上保証人:自分の不動産などを担保にして他人の借金を保証している人です(返済がないと担保が実行される立場)。
一方で、「時効によって結果的に得をするかもしれない」程度の人は、利益が間接的であるとして援用が否定されることがあります。ポイントは、時効の効果が自分の立場に“直接”結びつくかどうかです。
5. 債務者が援用しないとき、債権者が代わりに援用できる場合(代位)
少し応用ですが、実務では重要な場面があります。
たとえば、債務者が本来なら時効で払わなくてよい借金を、あえて支払おうとしてしまうと、別の債権者が「回収できなくなる」おそれがあります。このとき問題になるのが債権者代位権です。
- 債権者代位権:債権者が自分の回収を守るために、債務者が行使すべき権利を一定の場合に代わりに行使できる制度です。
裁判例は、時効を主張できる権利について、状況によっては「本人しか使えない権利」とまではいえないとして、債権者が害される場面では代わりに援用できることがあると考えています。
ただし、債務者が時効完成を知ったうえで時効を放棄してしまった場合は別です。
- 放棄:権利を自分から手放すことです。
放棄すると「援用できる権利」自体が消えてしまうため、債権者が代わりに行使する余地もなくなります。
遡及(時間をさかのぼって効く)
民法144条は、時効の効力が起算点にさかのぼって生じると定めています。
- 遡及:法律上の効果が、過去にさかのぼって生じた扱いになることです。
ただし、第三者の取引の安全などとの調整が必要なため、具体的な場面では単純に機械的にさかのぼるとは限りません。
原始取得(取得時効の特徴)
取得時効で所有権を得るのは、誰かから譲り受けるのではなく、法律上あらたに権利が生じると整理されます。
- 原始取得:他人の権利を引き継ぐのではなく、新しく独立した権利を得ることです。
このため、状況によっては、その土地についていた抵当権などの負担が消える方向になることがあり、取得時効は影響が大きいとされます。
- 抵当権:借金が返されないときに、土地などを売って回収できるようにする担保の権利です。
時効完成後の言動と信義則(実務でよく揉めるところ)
たとえば、時効が完成していたのに、債務者がそれを知らず「待ってください」「分割で払います」など、支払いを前提とする発言をしてしまうことがあります。その後に「やっぱり時効です」と言えるかが問題になります。
ここで登場するのが信義則です。
- 信義則:相手の信頼を裏切るようなやり方は公平に反するので許されない、という一般原則です。
現在の判例の考え方は、単に「放棄した」と決めつけるのではなく、債務者の言動が債権者に正当な期待を抱かせたような場合には、後から時効を主張することが信義則に反して許されないことがある、という整理です。
時効は、時間の経過によって権利関係を確定させ、社会の安定と公平を両立させるための制度です。
ただし、実際には「援用が必要か」「誰が援用できるか」「言動によって信義則が問題になるか」など、期間だけで機械的に決まらないポイントもあります。
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