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契約不適合責任ー企業向けの体系と実務の着眼点

投稿日 :
2025-10-30 17:59:46
カテゴリ :
企業法務
WRITER :
桜花法律事務所 中島俊明

契約不適合責任―企業向けの体系と実務の着眼点

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目次

・はじめに

・意義と範囲

・法的性質

・責任の種類

・消滅時効と通知義務の関係

・契約不適合責任免除特約について

・終わりに

 

1,      はじめに

民法改正(2020年4月施行)で、「瑕疵担保責任」という制度は廃止され、代わりに「契約不適合責任」という制度が導入されました。

改正は単なる用語変更にとどまらず、救済手段や期間規律が再編・明確化された点に実務上の意義があります。

 この記事では、契約不適合責任の全体像を整理しつつ、実際に問題になったときにどのような点が争いになるのか、売主・買主がそれぞれどのような対応をとれるのかを分かりやすく解説していきます。

 

2,      意義と範囲

 売買契約において、売主が買主に引き渡した目的物が、種類・品質・数量のいずれかに関して契約の内容に適合しない場合、買主は売主に対して追完請求(民法562条1項)、代金減額請求(民法563条)、そして、品質等に関しては通知義務(民法566条)を負います。これが「契約不適合責任」です。

 例えば、米10㎏を注文したのに麦10㎏が届いた場合は「種類の不適合」、契約より粗悪な材料が使われている場合は「品質の不適合」、約束した数が不足している場合は「数量の不適合」に当たります。

 さらに、このような契約不適合があることで契約の解除(民法541条、542条)や損害賠償(民法415条)の要件を満たせば、買主は解除権や損害賠償請求権も行使できます(民法564条)。

 

3,      法的性質

 木製テーブルの上にある花瓶

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 契約不適合責任は、債務不履行責任の一種として位置付けられます。契約に適合しない目的物を引き渡したことで債務不履行が発生し、その結果、追完請求権や代金減額請求権といった特則が適用される、というものです。

 重要なのは、これらの特則があるからといって一般の債務不履行責任(損害賠償など)が消えるわけではない、という点です。むしろ、両者の調和を図りながら適用することが求められています。

 

5,      責任の種類

   デスクの上のラップトップとマウスを操作する人

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(1)追完請求

 買主は、目的物が契約に適合しないとき、売主に対して修補・代替物の引渡し・不足分の引渡しを求めることができます。これが「追完請求」です。原則として、買主は売主に対し、追完に必要な相当の期間を定めて催告しなければなりません(民法562条)。

 

(2)代金減額請求

 代金減額請求は、履行の一部不能に基づく「部分解除」に似た機能を持ち、不適合を容認する代わりに代金を減額してもらう手段です(民法563条)。原則として、買主はまず売主に追完の機会を与える必要がありますが、次のいずれかに該当する場合は、催告を経ずに直ちに代金減額に進むことが認められます(民法5632項)。

・追完が不能な場合(1号)

・売主が追完を拒絶した場合(2号)

・定期行為において期限を徒過した場合(3号)

・催告しても追完が見込めない場合(4号)

 なお、一度減額請求を行った場合、その同じ不適合については、追完や解除を後から求めることはできません。

 

(3)損害賠償請求

契約不適合責任と損害賠償の考え方(民法415条・416条・564条)

売買の目的物が契約どおりでないときは、買主は契約不適合責任に基づいて、修補や代替物の引渡し、代金減額、解除、そして損害賠償を求めることができます(民法564条)。損害賠償の土台は債務不履行の規律(民法415条)で、基本構造は改正前後で大きく変わっていません。実務では、多くの場合「損害の範囲」と「金額」が争点になります。ここで鍵になるのが民法416条です。

416条の二つの層:通常損害と特別損害

416条は損害賠償の範囲を二つに分けています。

まず1項は「通常損害」です。債務不履行から一般に通常生じると考えられる損害は、相手方の予見可能性を特に問題にせず、賠償の対象になります。修補費、同等品の代替調達に伴う相場差額、付随する運搬・調整費などが典型です。

次に2項は「特別損害」です。特別な事情によって生じた損害でも、債務者がその事情を予見できた(または予見すべきであった)といえるときは、賠償の対象になります。ここで問われるのは「特別の事情の予見可能性」であって、損害額そのものの多寡ではありません。予見の時期は、原則として不履行時を基準に判断します。

いずれの場合も、債務不履行と損害とのあいだに、社会通念上相当といえるつながり(相当因果関係)が必要です。

ピアノのコンサート事例でイメージする

具体的にイメージしやすいよう、ピアノのコンサートの例で考えます。

主催者は、開演19時のリサイタルのため、レンタル業者に高級グランドピアノの当日16時搬入・17時調律完了を依頼しました。主催者は事前に、代替が利きにくい機種であること、遅延すれば公演中止とチケット払戻しが起こり得ることも伝えていました。ところが業者の搬入が大幅に遅れ、代替手配も間に合わず、公演は中止になりました。

このとき、

•代替ピアノの緊急手配にかかった割増費用、同等機種の相場差額、臨時運搬費、追加の調律費やスタッフ延長費といった費目は、コンサート用レンタルの不履行から通常生じ得る損害として、**4161項(通常損害)**に当たりやすいです。

•一方で、チケット払戻金、会場キャンセル料、広告費の空振り、出演者のキャンセル料、配信契約上の違約金などは、一般のレンタル取引では直ちに発生するとはいえないため、4162項(特別損害)として扱われます。これらを請求するには、「当日特定時刻に代替不能の機種が必要で、遅れれば中止や払戻しが現実化する」という特別事情を、相手方が予見できたことの立証がポイントになります。公演要項、タイムスケジュール、メールや見積書、チャットの記録などが有力な証拠になります。

なお、「ピアノが非常に高額だった」という事実は、それだけで特別損害になるわけではありません。高額であることは、同等品の調達費や相場差額の水準を押し上げ、通常損害の金額に影響しやすいという理解が実務的です。

【実務で押さえるチェックポイント】

損害を適切に主張・防御するために、次の点を意識すると整理しやすくなります。

 特別事情の共有・証拠化:日時・代替不能性・中止リスクなどを、契約締結時や履行過程で具体的に相手へ伝え、その記録を残します。

•損害額の合理性:相場資料、他社見積、領収書、払戻しの実績、広告出稿の証跡など、金額の根拠を積み上げます。

•損害軽減義務:主催者側は、代替手配、開演時間の繰下げ、演目変更など、現実的に取り得た低減措置を検討・実行し、その経過を記録します。これがないと減額や因果関係の否定につながりやすいです。

•相手方の反論可能性:予見不能、不可抗力や中間事情、過大な費目の否認などの主張が想定されます。

415条但書との関係】

                 契約不適合や遅延が、契約の性質・発生原因・取引上の社会通念からみて債務者の責めに帰さない事由によるといえる場合には、そもそも損害賠償は認められません(民法4151項但書)。不可避的な災害や予見困難な通行止めなどが厳密に立証されると、ここで免責が問題になります。

 

(4)契約の解除

解除は、追完が不能であり、かつ不適合によって契約目的が達成できない場合には催告なしに可能です(民法54213号)。追完が可能な場合でも、相当期間の催告後に履行がなさなければ解除できます(民法541条)。もっとも、不履行が軽微で契約目的を達成できるときは解除は認められません。

 

7,      消滅時効と通知義務の関係

売買契約で引き渡された建物や商品が、種類や品質の面で契約の内容に適合していない場合、

買主は法律上、いくつかの請求を行うことができます。

具体的には、追完請求(民法562条)、代金減額請求(民法563条)、損害賠償請求(民法564条・415条)、契約解除(民法541条・542条)などがこれにあたります。

ただし、こうした請求はいつでも自由に行使できるわけではありません。

民法上は、「通知義務」と「時効」という2つの時間的制限が設けられており、

これらを適切に管理していないと、権利が消滅してしまうおそれがあります。

 

・通知義務

まず、買主は契約不適合を発見したときから1年以内に、その旨を売主に通知しなければなりません。

この期間は「除斥期間」とされ、単に請求が制限されるだけでなく、

期間を経過すると権利自体が消滅する点に注意が必要です。

したがって、たとえば建物に不具合を発見したものの、

そのまま1年以上経過してから売主に連絡した場合、

たとえ明らかな不適合が存在していても、原則として請求を行うことはできません。

通知の内容については、抽象的に「不具合があります」と伝えるだけでは足りません。

売主が不適合の内容を把握できる程度に、

具体的な箇所や状況を説明することが望ましいとされています。

もっとも、損害額や修理費用の見積もりまでを示す必要はありません。

なお、売主が引渡しの時点で不適合を知っていた場合、

または重大な過失によって知らなかった場合には、

通知がなくても買主は契約不適合責任を追及することができます(民法566条但書)。

 

・通知後の時効(民法166条)

1年以内に適切な通知を行っても、その後に無期限で請求できるわけではありません。

通知によって保存された権利も、一定期間が経過すると時効によって消滅します。

時効期間は次のとおりです。

    不適合を知ったときから 5

     契約(引渡し)から 10

買主が契約不適合を知った時点で「権利を行使できることを知った」とみなされるため、

この時点から5年が経過すれば、原則として時効が完成します。

たとえば、2020年に不適合を発見し、同年中に通知を行った場合でも、

2025年までに追完請求や損害賠償請求などの具体的な行動を取らなければ、

権利は時効により消滅します。

つまり、不具合を知っても通知しなければ、一年経過で権利行使できなくなる、通知をしても5年(又は10年)を過ぎれば時効により権利が消滅します。

 

中古住宅の雨漏りについては、まず通知と時効を分けて考えます。買主が不適合を知ったら1年以内に売主へ通知しなければ、原則として請求できなくなります。請求できる期間(消滅時効)は、知った時から5年と権利行使が可能になった時から10年の早い方までです。したがって、引渡し後3年目に発見したなら、すぐ通知したうえで遅くとも8年目までに請求する必要があります。発見していながら通知しなければ1年経過で請求不可です。11年目に初めて発見した場合は、直ちに通知しても客観10年を超えているため原則時効で請求できません。もっとも、契約の特約や、売主の悪意(隠匿)などが立証できる特殊事情があるときは、例外的な検討余地が生じます。

通知をしなかった場合は、原則として追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除のいずれも行使できなくなります(「知った時から1年以内に売主へ通知」が要件)。ただし、売主が引渡し時に不適合を知っていた/重大な過失で知らなかったときは、この失権効は及びません(民法566条)。

 

8,      契約不適合責任免除特約について

契約不適合責任は、民法上の任意規定であり、契約自由の原則に基づき、当事者間で契約不適合責任を免責する旨の特約を設けることも可能です。

とりわけ不動産売買契約では、免責条項が置かれている場合、原則として売主に契約不適合責任を追及することはできません。

しかし、後述するように契約不適合責任を免責する旨の特約が設けられていても、特約の効力が制限または無効になるケースもありますので、すぐに諦めてしまうのは禁物です。

契約不適合責任を免責する旨の特約が設けられていたとしても、以下のようなケースでは、免責が認められない可能性があります。

 

(1)   消費者契約法が適用されるケース

売主が事業者、買主が消費者である場合には、消費者契約法が適用されます。

消費者契約法では、消費者に生じた損害の賠償責任の全部を免除する特約を無効とし(消費者契約法8条)、一部の免除であっても消費者の利益を一方的に害するものについては無効とされています(消費者契約法10条)。

そのため、消費者契約法が適用されるケースでは、契約不適合責任を免責とする特約は無効になる可能性があります。

 

(2)   宅建業法が適用されるケース

売主が宅地建物取引業者、買主が宅地建物取引業者以外であった場合には、宅建業法が適用されます。

宅建業法では、契約不適合責任が目的物の引渡しから2年以上となる特約を設ける場合を除いて、民法よりも買主に不利になる特約を無効としています(宅建業法401項)。宅建業者は、不動産取引に関する豊富な知識と経験を有していますので、それ以外の人との間の取引では、買主に不利益が及ばないように法律により契約不適合責任の免責の効力が制限されています。

そのため、不動産売買契約書に契約不適合責任の全部を免責する条項が設けられていた場合には、無効と判断されます。

 

(3)   売主が契約不適合を知りながら買主に告げなかったケース

契約不適合責任を免責する条項が設けられていたとしても、売主が故意に目的物の契約内容との不適合を告げなかった場合には、契約不適合責任の免責は認められません。

たとえば、中古住宅に雨漏りがあることを知りながら、買主にそのことを告げなかった場合には、買主は、売主に対して契約不適合責任を追及することが可能です。

 

(4)   売主の行為により権利に関する不適合が生じたケース

売主の行為によって権利に関する契約内容との不適合が生じたケースでも、契約不適合責任を免責する特約は適用されません。

たとえば、売主が売買の目的物である建物に抵当権を設定して銀行から融資を受けたようなケースがこれにあたります。このようなケースでは、売主自ら契約不適合責任の状態をもたらしたといえますので、当然の結論といえます。

 

(5)   新築物件を購入したケース

新築住宅の請負契約または売買契約では、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)が適用されます。

品確法では、新築住宅の構造耐力上主要な部分および雨水の侵入を防止する部分に関しては、引渡しから10年間の契約不適合責任が定められています。民法では引渡しから1年とされているのと比べると非常に長い期間契約不適合責任が認められています。

このような品確法の規定に反して、契約不適合責任の免責または制限をする条項については、無効になります。

 

9,      終わりに

  水, 人, 男, 椅子 が含まれている画像

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契約不適合責任は、旧来の瑕疵担保責任を整理・発展させた制度です。買主の救済は広がったものの、売主側の責任も長期に及びます。そのため、契約書を作成するときは責任の範囲や機関を明確にし、免責条項の有効性や通知方法をしっかりと確認することが不可欠です。

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